30年待たされた異世界転移

明之 想

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第11章 陰謀編

魔法薬 2

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<ヴァーンベック視点>



「はぁ~」

 幸先の良かった王都滞在序盤とは打って変わって、ここ数日はまったく手掛かりらしきものが手に入っていない。視力を取り戻す薬なんか、王都のどこにも存在しないというのだ。それどころか、先日手に入れた神薬の情報すら疑わしいと、そんな話まで聞いちまった。

 いわく、神薬など存在しない。
 失くした視力を取り戻す方法など存在しない。
 神殿の奇跡ですら不可能。

 ってな具合で……。

 ちっ!
 何言ってやがる。

 あるんだよ。
 方法は絶対に存在するんだ。
 王都の誰が何と言おうとだ。

 それにな、コーキも言ってたんだぜ。
 シアの視力は必ず取り戻せるってな。
 あいつの話なら間違いねえだろ。
 だから、俺は探し続けるだけだ。

「……」

 ところで、コーキは何してる?
 あいつも王都に来るって言ってたよな?
 まだ着いてねえのか?


「どうしたの?」

 傍らのシアが不安そうに尋ねてくる。

「ヴァーン?」

 俺の顔に、いや空気に出てたのか?

「……何でもねえよ」

「……」

「ちっとばかし疲れただけだ」

「そう……そうよね。毎日わたしのために頑張ってくれてるもんね」

 違う。
 俺がやりたくてやってんだ。

「ありがと、ヴァーン」

「……礼はいらねえって」

「うん。でもね、やっぱり言葉にしたいの」

「……」

「いいでしょ?」

「……」

「ねっ、ヴァーン?」

「シアがそれで満足するなら、まあ。けど、少なめにしてくれよ」

「ふふ、分かってるわ」

 こんなことで、こぼれる様な笑みを浮かべてくれる。

「……」

 シア。
 おまえの笑顔を守るためなら、俺は何でもしてやる。
 何でもだ。


「あっ、今日も遅くなっちゃったね」

「だな。そろそろ寝るか?」

「……うん」

 明日も朝から走り回る必要がある。
 そのためには睡眠が重要だ。
 シアと一緒に……。




********************************




 王都滞在6日目。

 この3日間、魔法薬を求めて歩き回ったものの成果は皆無に等しい。ギルドでも薬屋でも、回答は全て同じ。そんな薬など存在しないと皆が口を揃えるばかりだった。

 まっ、簡単に手に入るものじゃないとは分かっているし、王都に薬が存在しないのなら、それはそれで仕方ないこと。

 あと数日調べて、それでも存在の確認ができなければ次に進むだけ。
 いや、もう方針を変えた方がいいか?

「そうだな」

 明日からは神薬調合のための素材調査も並行して進めるとしよう。

 で、どこから調べればいい?
 白都の中なら……。

 などと思索しながら歩く大通り。
 夕暮れに近いとあって、家路を急ぐ人影も多い。

 と?

「きゃあぁぁぁ!!」

 大通りの向こう。
 広場の中から悲鳴が響いてくる。

「……」

 ここまでは荒事とは無縁の王都滞在だったが、これは?


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