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第10章 位相編
油断
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「住宅街がボクの散歩道なんだ。今はこの近くに住んでるからさ」
里村がひとり暮らししている部屋は、和見の家からそう離れてはいない。
散歩できる距離でもある。
「どう、みんなで一緒に散歩する?」
「はあ? 散歩なんてするわけねえだろ」
「どうして? 楽しいのに?」
「里村君、今は仕事中なの。散歩は次の機会にしてもらってもいいかしら?」
「仕事中って……まさか異形が出たの? こんな場所で?」
「違うわ」
「だったら、異能者と?」
「……」
「里村ぁ、こっちは急いでんだぞ」
やっぱり、5年前の過去世界の里村とは違う。
この世界の里村は、異能とは無縁の普通人だ。
「あっ、ごめん。つい興奮しちゃって」
「異形で興奮って、おめえらしいけどよ」
「……ごめん」
「謝ることじゃないわ。でも、そろそろ失礼するわね」
「……うん」
********************************
<和見幸奈視点>
テポレン山での大勝利に沸いたあの夜。
わたしが体を借りていたセレスさんの身に何かが起こった夜。
こっちの世界に戻って来たわたしは、セレスさんのことが心配でならなかった。
少しでも早く功己からセレスさんの状況を聞きたかった。
けれど、その日も次の日も功己は帰って来ることはなく。
わたしは待ち続けるだけ……。
これだけ待たされるのは、セレスさんが無事じゃないから?
そんな思いにとらわれてしまう。
心が乱れてしまう。
「……」
黒都からトゥレイズ城塞、テポレン山に至るまでの長期間、セレスさんとして暮らしていたわたしにとって、彼女はとっても大切な存在。
ううん、大切どころじゃない。
友達や家族以上。
わたしの分身とさえ今は感じている。
だから、彼女の無事を。
せめて、生きていてくれることを。
毎日祈りながら、わたしは日本で暮らしている。
でも……。
功己が何日も戻らないのは、セレスさんが生きていることを意味しているのでは?
セレスさんを助けるために奮闘しているから、こっちに戻れないとか?
「……」
功己がセレスさんのために信じられないほど力を尽くしていたことを、わたしはよく知っている。それを彼女自身として間近で見てきたから、誰より分かっている。
だから、そう思うのかな?
セレスさんは無事に暮らしている。
あちらの世界で元気だ、と。
そういう風に考え、自分を安心させ、何とかやり過ごす日々。
けれど、まだ、功己は戻ってこない。
「……」
こちらの世界は安全で穏やかだ。
確かに異能や異形は存在するけれど、あちらとは比べ物にならない。
日本で生まれ育ったわたしにとっては当然のこの事実。
なのに、今では当然と思えない。
セレスさんの世界を経験したからだ。
セレスさんとあちらの世界を思えば思う程、奇跡のような平和な日常に感謝の思いを抱いてしまう。本当にありがたいなと。
そんなことばかり考えて油断していたわけではないのだけれど。
やっぱり、甘く見ていたところもあったのかもしれない。
いきなり屋敷に侵入してきた壬生の人たちによって、違う世界に連れ去られてしまったのだから。
里村がひとり暮らししている部屋は、和見の家からそう離れてはいない。
散歩できる距離でもある。
「どう、みんなで一緒に散歩する?」
「はあ? 散歩なんてするわけねえだろ」
「どうして? 楽しいのに?」
「里村君、今は仕事中なの。散歩は次の機会にしてもらってもいいかしら?」
「仕事中って……まさか異形が出たの? こんな場所で?」
「違うわ」
「だったら、異能者と?」
「……」
「里村ぁ、こっちは急いでんだぞ」
やっぱり、5年前の過去世界の里村とは違う。
この世界の里村は、異能とは無縁の普通人だ。
「あっ、ごめん。つい興奮しちゃって」
「異形で興奮って、おめえらしいけどよ」
「……ごめん」
「謝ることじゃないわ。でも、そろそろ失礼するわね」
「……うん」
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こっちの世界に戻って来たわたしは、セレスさんのことが心配でならなかった。
少しでも早く功己からセレスさんの状況を聞きたかった。
けれど、その日も次の日も功己は帰って来ることはなく。
わたしは待ち続けるだけ……。
これだけ待たされるのは、セレスさんが無事じゃないから?
そんな思いにとらわれてしまう。
心が乱れてしまう。
「……」
黒都からトゥレイズ城塞、テポレン山に至るまでの長期間、セレスさんとして暮らしていたわたしにとって、彼女はとっても大切な存在。
ううん、大切どころじゃない。
友達や家族以上。
わたしの分身とさえ今は感じている。
だから、彼女の無事を。
せめて、生きていてくれることを。
毎日祈りながら、わたしは日本で暮らしている。
でも……。
功己が何日も戻らないのは、セレスさんが生きていることを意味しているのでは?
セレスさんを助けるために奮闘しているから、こっちに戻れないとか?
「……」
功己がセレスさんのために信じられないほど力を尽くしていたことを、わたしはよく知っている。それを彼女自身として間近で見てきたから、誰より分かっている。
だから、そう思うのかな?
セレスさんは無事に暮らしている。
あちらの世界で元気だ、と。
そういう風に考え、自分を安心させ、何とかやり過ごす日々。
けれど、まだ、功己は戻ってこない。
「……」
こちらの世界は安全で穏やかだ。
確かに異能や異形は存在するけれど、あちらとは比べ物にならない。
日本で生まれ育ったわたしにとっては当然のこの事実。
なのに、今では当然と思えない。
セレスさんの世界を経験したからだ。
セレスさんとあちらの世界を思えば思う程、奇跡のような平和な日常に感謝の思いを抱いてしまう。本当にありがたいなと。
そんなことばかり考えて油断していたわけではないのだけれど。
やっぱり、甘く見ていたところもあったのかもしれない。
いきなり屋敷に侵入してきた壬生の人たちによって、違う世界に連れ去られてしまったのだから。
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