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第10章 位相編

疑心暗鬼

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「身柄、確かに引き受けました」

「研究所への連行、お願いするわね。私と武上君は少し遅れて研究所に戻るつもりだから。鷹郷さんには、よろしく伝えておいて」

「了解です」

 吾妻と空間異能者を連れて和見の屋敷から出て行く能力開発研究所職員。
 彼らを見送る古野白さんと武上の顔には、安堵とともに疲労の色が見える。
 傍らの幸奈と武志も同様だ。

「幸奈さん、武志君、今後のことは任せてちょうだい。和見家のこと、あなたたちのこと、研究所が責任をもって対応するから。もちろん、あなたたちの父親についてもね」

「ありがとうございます」

「おう。こんなこと仕出かした相手にゃ、研究所も強く出るからよ。何も問題ねえぜ」

「はい」



 あの異空間で吾妻と空間異能者を倒した後。
 こちらに戻るのに少し手間取るかとも思ったのだが、案に相違してあっさりと帰還することができた。

 しかし、異能者征圧、異形の気配滅却に続き、こうも簡単に事が進むと……。


「それで、あの人たちは大丈夫なんでしょうか?」

「異能抑制具と縄で拘束してんだ。心配ねえよ」

「研究所職員もプロなのだから安心して」

「そう、ですね」

 幸奈たちを助けることができたという事実には満足している。
 もちろん、安堵もしている。

 ただ、これで全てが終わったと考えていいのか?
 邪狼狗の気配が消えたってことは、奴を倒したということなのか?

 いや、簡単にそうは思えない。
 心から安心できない。

 疑心暗鬼にとらわれてしまう。

「こっからはオレたちが上手くやるからよ。ふたりは休んでくれや」

「私たちは一度研究所に戻るけど、幸奈さんと武志君は、今日はゆっくり休んで。それで、明日また話しましょ」

 頭を悩ましてしまう。
 が、だからといって、今の俺に分かることでもない。
 やはり、ここは研究所に行って……。

「はい。あの、今回は本当にありがとうございました」

「ありがとうございました」

「いいのよ。これは私たちの仕事なんだから」

「でも……」

「とにかく、今日は休んで。また明日、ね」

「……はい」

 疲労を笑みで隠した古野白さんと武上が和見家の玄関へと足を向ける。
 俺も。

「有馬君、悪いわね。疲れてるでしょうに、研究所にまで同行してもらって」

「疲れているのはお互い様ですよ」

「私たちは仕事だから」

「仕事じゃなくても報告は必要でしょ。だったら、さっさと済ませた方がいいですしね」

「おう、面倒なことは早く片付けた方がいいってな」

「それはまあ、そうだけど……」

「ただ、研究所に行く前に幸奈と話がしたいので、少し外で待っててもらえませんか?」

「……ええ、分かったわ」



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