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第10章 位相編
人外 1
しおりを挟む髪色は白銀へ、瞳は濃紅へと変化を遂げた空間異能者。
薄っすらと口の端に笑みを浮かべ、こちらを見つめる様はまったくの別人のもの。
髪と瞳以外は以前のままだというのに。
「おめえ……」
容姿的には、髪色と瞳が変化したに過ぎない。
ただ、纏う空気が違うんだ。
「……」
対峙している今も、肌に突き刺さるような気を感じる。
異質で強烈な気を。
おそらく、戦闘能力も上がっているんだろう。
「それがほんとの姿かよ」
「……」
「完全に別人じゃねえか」
武上の言う通り。
さっきの空間異能者とは受ける印象がまったく違う。
「……」
「おい、何とか言いやがれ」
「……」
「ちっ、喋る気はねえってか?」
空間異能者は軽い口調で多弁だったのに、こいつはまだ一言も喋ろうとしない。
口を閉ざしたその顔には、依然として笑みを貼り付けたまま。
「話さねえなら、それでもいいぜ」
「……」
「喋んなくても、姿がどうでもなぁ、関係ねえ。こっちは倒すだけだ!」
ここまで言われても、口を開かない。
まさか、喋れないのか?
「いくぞ!」
「武上君、ちょっと待って」
攻撃態勢に入った武上に、後ろから古野白さんの声が。
「ああ?」
「あいつ、普通じゃないわ」
「んなの、分かってらぁ。けどよぉ、変身して強くなっても問題なんてねえ」
「違うの」
「何が?」
「武上君は感じない? 人外の気配を?」
「人外だと?」
「ええ」
「……」
そうか。
これは異能者の気配じゃないんだ。
「まさか、野郎……人じゃなく異形なのか?」
「分からない。人の気も少し残ってるから」
「ってことは、半異形?」
「それも分からない。でも、異形と何らかの関係があるとは思う」
「異能者が異形の力を持ってるってか?」
半異形、異形の力を宿した異能者。
そんなものが実在すると?
「とにかく、これは大問題よ」
「……」
「……」
古野白さんと武上は明らかに戸惑っている。
一方、変身した空間異能者は、こちらのやり取りを目にしながらも動こうとしない。
「武上君、用心して」
「用心はする。が、やるこた同じだぜ」
「武上君!」
「古野白は援護を頼まぁ。ってことで、いくぜ!」
一言告げるや、返事も聞かず突進する武上。
「うおぉ!」
いきなり渾身の蹴りを空間異能者の胸元へ。
「……」
変身した空間異能者は、武上の勢いに押される風もなく。
無言のままいとも簡単に躱してしまった。
が、武上も。
「おお!」
そこに追撃の拳。
そして、左右の蹴りを繰り出していく。
「……」
「だあ!」
拳撃に蹴撃と続く猛攻。
どれもが尋常ではない速度と威力を誇る武上の連続攻撃だ。
にもかかわらず、当たらない。
力感を感じさせない動きで軽々と回避している。
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