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第10章 位相編

軽視

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<古野白楓季視点>



 有馬君の縄があれば吾妻を拘束できる。拘束さえしていれば、空間異能者が現れても対処は難しくない。彼を捕らえることだって可能だろう。

 そう。
 長かった戦いも、これで決着をつけることができる。

 ただ、空間異能者が姿を現さなかった場合は……。
 それはそれで、またひとつの決着かな。

 そのためにも。

「武上君、早く縛って」

「おう」

 武上君の手に握られた縄が吾妻の体に。
 その腕に触れた瞬間……。

「!?」

「っ!」

 空間異能者だ。
 彼が吾妻の後ろに現れた!

「させっかよ、この野郎!」

 縄を投げ捨て、武上君が突進。
 躊躇なく空間異能者に殴りかかる。
 縄を拾った有馬君も武上君に続いている。

 私は数歩ずれて異能経路を確保、そして。

「炎弾!」

 空間異能者に向けて発射。
 武上君と私の攻撃が続けて放たれた。

 それなのに……。

 攻撃を身に受ける寸前に消失!

「野郎、どこだ?」

「……」

 僅か数秒の間の登場と消失に、ついていけない。
 混乱してしまう。

 すると、次の瞬間。

「ここですよ」

 空間異能者が横たわる吾妻の傍らに現れ、その腕を掴み。
 また……。

「なっ!」

 消えてしまった。
 逃げられてしまった。
 空間異能者だけじゃなく、吾妻にまで。

「くそっ、やられた!」

 分かっていたのに。
 警戒していたのに。
 みすみす2人を逃して……。

「……」

「……」

「まだだ、2人ともまだだぞ!」

 有馬君?

「どういうこった?」

「吾妻も空間異能者も、まだ脱出していない」

 えっ?
 現実世界に戻ったんじゃ?

「ほんとか?」

「ああ」

 姿は消えているのに?
 有馬君には分かるの?

「ほら、そこだ!」

 駆け出した有馬君の先。
 空間が裂け、吾妻と空間異能者が姿を現した。




*************************




 独特の空気の流れ、空間の歪み。
 間違いない。
 あの空間異能者だ。

 登場する地点を見極め、突進。
 勢いのままに攻撃を仕掛けてやる。

 が……。

「っ!?」

「また消えたのかよ?」

 さっきに続き、現れた次の瞬間に消えてしまった。
 いや、さっき以上に間がなかった。

「こんなこと、何度もできるものなの?」

 となると、かなり厄介だぞ。

「逃げてばっかり、面倒な野郎だぜ」

「……」

「でも、今度こそもう、あっちに逃げたのでは?」

「どうなんだ、有馬?」

「……分からない」

 今はまだ、はっきりと気配を掴めていない。

「が、おそらくは……ここに残っている」

「そうか、なら、何とかしねえとな」

「……ああ」

 あの空間異能者。
 これまでの言動や戦闘の感覚から、力量を見誤っていたようだ。

 けど、考えてみれば、おかしくないか?
 空間異能は決して軽く見て良い力じゃないのに?
 位相空間の鍵を握っている人物なのに?

 俺も古野白さんも武上も、吾妻ばかり警戒していた。

「……」

 そもそも、あいつの名前は何なんだ?
 俺たちは、空間を操る恐るべき敵の名前すら把握していないのか?

 やっぱり、何かがおかしいぞ。


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