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第10章 位相編

集団戦 2

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<古野白楓季視点>



 空中の歪みの中から現れた吾妻。
 出現と同時にこっちに気付いたみたいだ。

「吾妻さん!」

「ああ」

 でも、もう遅いのよ。
 炎弾は既に発動済みだし、武上君も強化した脚で猛然と駆けている。あなたの目前にいるの。避けられないでしょ。

「うおぉぉ!」

 バアァァン!

 炎弾にも劣らぬ速度で吾妻に接近した武上君の右拳、そして炎の塊が炸裂。
 完璧な連続攻撃。
 先制に成功……と思ったのに?

 炎弾は空間異能者が持つ大きな盾で防がれ。
 武上君の拳は吾妻が左腕でいなしている。

「危なかったですねぇ、吾妻さん」

「……」

 残念ながら初撃は失敗。
 けど、これも想定外じゃない。

「幸奈さん、お願い」

「はい!」

「武上君、次よ」

「おう!」

 吾妻たちと違い、異空間に24時間も閉じ込められていた私たちの今の身体は万全とはいえない。だから、ここは短期決戦を仕掛けるべき。武志君でも幸奈さんでも、利用できるものは何でも使わせてもらうわ。最初から全力でね!

 大きく息を吸った幸奈さん。
 その息を吐き出すように。

「止まれぇ!」

「……?」

 僅かな時間対象者の動きを止めるという幸奈さんの力。
 まだ能力に目覚めたばかりで、発動も安定していない幸奈さんの異能。

 その特殊な異能が……。

「……」
「……」
「……」

 静まりかえる異空間。

「やったか、姉さん?」

「……分からない」

 幸奈さんは微妙な手応えみたいだけれど、吾妻は止まっている。
 だったら、成功?

「動けねえ敵なんざ、倒しても嬉しかねえが」

「……」

「そうも言ってられねえんでな。眠ってもらうぜ!」

 吾妻に武上君が襲い掛かる。
 いくら凄腕の異能者でも、身動きが取れないなら敵じゃない。
 これで決着がつくはず。

「なにっ!?」

 えっ!?

 動いた。
 武上君の一撃を躱した。
 吾妻が後ろに跳んで武上君の拳を!

「てめえ、動けんのかよ?」

「……」

「ってことは、失敗か?」

 発動したように見えたのに?

「幸奈さん?」

「……ごめんなさい」

 幸奈さんが謝罪の言葉とともにうなだれている。

「……」

 異能は不発。
 なら、吾妻は自分で動きを止めていただけ?

「姉さん、大丈夫だ」

「えっ?」

「もう一度、いや、何度でも試せばいい!」

「……分かった!」

 そう、そうよ。
 発動するまで続ければいい。

「もう一度……」

 大きく頷いた幸奈さんが深呼吸をして。
 そして。

「止まれぇぇ!!」

 一度目以上の大音量。
 発動は?

「……吾妻さん?」

「……大丈夫だ。問題ない」

 これも効いてないの?




*******************************




 ドン!
 ドカン!!

 敵異能者の放ったウォーターボールとアイスアローが土と氷の防御壁に激突。

「……」

 今回も何とか持ち堪えたようだ。
 ただ、これじゃあ、長くはもたないだろう。
 正面を守る氷壁は崩壊寸前、土壁にも無数のひびが入っているのだから。

 とはいえ、左右と後ろの防御壁は万全。
 銃弾を完璧に防いでくれている。

 その射撃者たちに向けられた鷹郷さんの操風の異能も……。

「うわぁ!」
「ああぁ!」

 敵2人の無力化に成功。

「ウインド!」

「ぎゃあ!」

 さらなる追撃で3人目も撃破。
 素晴らしい精度だ。

 それでも、射撃手2人は逃してしまったか。

「おまえたち」

 すると。

「先にそっちだ!」

 和見家秘書の命令で射撃手たちが攻撃の手を止めた。
 ということは、狙いは……幸奈?


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