30年待たされた異世界転移

明之 想

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第10章 位相編

矛盾

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「和見の家が揺らぐことはない」

 和見家秘書の顔には自信が溢れている。

「誓約の破棄は異能全家門を敵に回すことを意味しますが、それでも問題はないと?」

「文書があれば問題かもな」

「ここにありますが?」

「ふっ、始末すればいいだけのことだろ」

「……」

「どうした?」

「和見家はなぜサインをしたのです? すぐに破棄するくらいなら、簡単に署名などしなければ良かったのでは?」

「……」

「坊城さん、ですね?」

「っ!」

「彼が承諾したから」

「うるさい!」

 図星か。
 味方として呼んだ坊城老人の存在が仇になったとは皮肉なもんだ。

 しかし、あの老人の影響力はとんでもないな。
 ほんと、公権力より坊城老人ひとりの存在を重視するなんて……。
 普通に考えて、あり得ないだぞ。

「とにかく、文書を渡したまえ!」

「……」

「そうすれば命だけは考えてやろう」

「断ったら?」

「もちろん、消えてもらう」

 仮に鷹郷さんたちの命を奪えたとしても、研究所が黙っていない。
 分かっているのか?

「自分の立場が理解できたかな? なら、文書を渡すんだ!」

「……」

 和見家が並外れた経済力を誇るのは周知の事実。
 とはいえ、こんな凶行をもみ消す力まで持っているというのか?
 大見得を切っているだけではなく?

「早くしろ!」

「……渡す気はありませんね」

「何だと!」

「文書は持ち帰ります」

「っ! 後悔するぞ!」

「後悔するのは、あなたたちの方ですよ」

「……その人を見下したような目。自分たちは選ばれた超越者だと驕っている目だな」

「……」

「力とは異能だけではない。それをおまえたち異能者に教えてやる!」

「あなたも異能者を従えているようですが?」

「黙れ!」

 この秘書、コンプレックスと矛盾だらけじゃないか。
 何とも面倒なやつだ。

「和見家が持つ力を侮った己を悔やむがいい」

 で、やっぱり銃を使うと。

「撃てぇ!」

 もちろん、異能者にとっても銃は厄介だろう。
 が、今の会話で稼いだ時間は充分なもの。
 会話中、鷹郷さんの目配せを受け取っていた2人の部下も準備はできているはず。

「サンドウォール!」

「アイスウォール!」

 ほら。
 背後から異能発動の声だ。

 と、ほぼ同時に。

 ダンッ!
 ダンッ!
 ダンッ!
 ダンッ!
 ダンッ!

 銃声が5つ。

「……」

 硝煙が消えたあと、俺と鷹郷さんの目の前に見えるのは2つの壁。
 放たれた銃弾は、その土壁と氷壁に埋もれている。
 当然、こちらには届いていない。


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