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第10章 位相編

位相? 1

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 瞬く間に完了するはずの移動が、終わらない。
 目の前は依然として真っ白なまま。
 浮遊感も変わらず。

「……」

 身に感じる感覚はいつもと同じ。
 なのに、到着しない。
 いつまで経っても移動が終わらない。

 何なんだ?
 この異常な状態は、いったい?
 何が起きている?

「!?」

 焦燥感に駆られる俺の前で、真白が消失。

 到着か?
 いや、到着じゃない。
 浮遊感が残っている!

「……」

 どこともしれない空間を漂っているような感覚のまま。
 真白が消えたあとに浮かんできたのは……。



『新人、ちいとツラ貸しな』

『……』

『何だ、その目は!』

『生意気な野郎だぜ』

 ここは……。
 オルドウの冒険者ギルドの裏にある狭い路地、か?

『こいつに冒険者の基本を教えてやろうぜ』

『そうだな。先輩がキッチリ教えてやるか』

『……』

 人目のないギルドの裏手で中堅冒険者が新人に絡んでいる。

『感謝しろよ』

 俺自身目撃したことはないが、冒険者間ではよく耳にする話だ。

 しかし、なぜ?
 どうして異世界間移動中にこんな光景が目の前に?

『ほら、ついて来い』

『タダで指導してやるんだぜ。ありがたく思えよ』

 3人と1人は、さらに奥にある路地裏へ。
 そして……。


『わ、悪かった』

『ううぅ』

『……』

 路地裏の地面に倒れ伏す3人の中堅冒険者。

『……』

 中堅3人が新人に捻られるという場面は、実際のところそう見られるものじゃない。とはいえ驚くのはそこではなく……この光景を作り出した新人冒険者。3人の冒険者に絡まれ、彼らを地に這わせた新人が。

 俺だってことだ。

「……」

 もちろん、俺にこんな経験はない。
 だから、この映像はただの虚構、白昼夢のようなもの。

 そう思いたいが……。

 今の状況下で、これを単なる夢と捉えるのは無理があるだろう。
 ならやはり、位相世界のひとつ?
 異世界間移動と位相への移動が混線でもしたと?

 っ!?

 再び周りが真白で覆われていく!
 が、すぐにその白も消失。
 次に眼前に現れたのは。


『カハッ?』

 むせている。

『アッ、アア……』

 首から血が!


 ここは夕連亭。
 俺が首を斬られた、一度目のあの場面だ!


『カッ、カハッ』

 手足の力が抜け。
 膝が崩れる。
 その直前、振り返った俺の目に入ってきたのは……。

『……』


 もちろん、この情景は今も深く心に残っている。
 忘れられるわけがない!

 ただし、あの時は振り返って確認などできなかったはず。
 体の力が抜け倒れたところに、犯人らしき者の足先が見えただけだった。

 微妙に現実と異なっている?
 ならば、これも位相?

 位相世界の俺も同じ経験を……。


「っ!」

 三度みたび、目の前が白化。
 今度は何が?



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