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第10章 位相編
疲労
しおりを挟む「お客さん?」
「……!」
近づく気配、掛けられた声に、体が瞬時に反応。
無意識のまま周囲を確認してしまう。
「……」
ああ、うとうとしていたのか?
「お疲れのようですね」
視線の先には、夕連亭の店員。
顔見知りの若い男性だ。
彼がこちらを心配そうに見つめている。
「以前より少しやつれたのではありませんか?」
「そう見えます?」
「ええ、きっと働き過ぎですよ。あまり無理しないでくださいね」
働き過ぎ?
無理?
そうなのか?
「……」
そう、かもしれないな。
ただでさえ忙しい異世界と日本の二重生活の中で、特に最近は休みなく動いていたような気がする。
テポレン山での戦いに備え睡眠を削って準備をし、セレス様の不幸を回避するため限界まで警戒を続け、それが解決したと思ったら、今度は過去の位相世界に飛ばされる始末。
やむを得ないこととはいえ、身体を酷使してしまったようだ。
「冒険者さんは健康が第一、休むのも仕事の内ですから……って、偉そうなこと言ってすみません」
「いえ……」
彼の助言通り、冒険者の体は資本そのもの。
食堂で食事前に睡魔にやられるなんてとんでもない。
今夜はもう早く休んだ方がいいな。
「でも、そこまで疲労されているということは……ひょっとするとワディン紛争関連ですか?」
「……どうしてそう思うんです?」
「ウチに来る冒険者さんの中には、ワディン領まで遠征している方もいますので」
「オルドウの冒険者がワディン領に?」
「はい。オルドウのギルドからはそれなりに遠征しているみたいですよ」
オルドウからワディン領までの距離を考えると、あり得ない話じゃない。
とはいえ、そんな話初めて耳にしたぞ。
「まだ紛争は続くでしょうし、これからもワディン領に向かう方は増えそうな」
「……」
「あっ、でも、お客さんはまずゆっくり休んでくださいね」
「……ありがとうございます」
「いえ。何といっても、ウチにとって大切なお客様ですからね」
そう言って片目を瞑りながら頭を下げてくる。
「ところで、食事はどうされます? 少し上で休まれますか?」
まだ眠いが休むのは後、まずは。
「食事をお願いします」
「了解です。では、ガントをお持ちしますね」
「ふぅぅ……」
柔らかい肉の食感がたまらないガンドの美味しさに吹き飛んでいた眠気も宿に戻る頃には戻ってきたようで、どうにも体が重く感じてしまう。
となると、明日に備えて早くあちらに戻りたいところだが。
「ここで休む方が睡眠時間は取れる、か……」
宿での3時間が研究所に戻ったら1時間。
当然ながら、この世界で休む方が効率的だ。
ただ、早くあちらの世界に戻りたい気持ちも拭い切れない。
「……」
やはり、まずは戻るべき?
そうだよな。
よし。
「……異世界間移動!」
発動後は恒例の流れ。
目の前が白くなり、既に慣れてしまったあの浮遊感が……。
ん?
違う!
これは??
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