30年待たされた異世界転移

明之 想

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第10章 位相編

決着

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 燃え盛る獄炎の中、悲鳴が消え、炎が消え。
 そして、邪狼狗までもが……消えてしまった。
 古野白さんの創り上げた炎と共に完全に消失してしまった。

 炎のあとには、その身の一欠片すら残っていない。


「やったぞ、古野白!」

 巨大蜘蛛に次いで邪狼狗まで、跡形もなく……。

「大異形を倒したんだ、オレたちが!!」

「討伐できた、のよね?」

「間違いねえ」

「鷹郷さん?」

「ああ、よくやってくれた」

「……よかった」

 大異形討伐を実感し、力が抜けたように座り込む古野白さん。
 無理もない。気力を振り絞りここまで戦い続けたんだから。

「おいおい、勝利の立役者が何ちゅう顔だ」

「さっきの炎弾で力を使い果たしたの」

「まっ、最後の最後で凄え威力だったし、しょうがねえか」

「そうよ、だからもっと労りなさい」

 彼女はもちろん、武上少年も全身全霊をもっての素晴らしい戦いぶりだった。それでも戦闘が終わった途端、こうして俺のよく知る2人に戻っている。

「本当に見事な炎だった。邪狼狗滅失は古野白の手柄だな」

「いえ……敵は瀕死の状態でしたから」

「仕留めたことに変わりねえんだ。古野白は誇っていいぜ」

「私だけの力じゃないわ。みんなと……有馬さんのおかげよ」

「確かになぁ、オレの力は大きいよなぁ」

「……」

「……」

「最後以外はオレが大活躍だったし」

「ほんと、武上君、あなたって……」

「ん? 何だ?」

「はぁ~。何でもないわよ」

「そうか?」

「……」

 古野白さんは呆れた顔を見せているが、多くを返そうとはしない。
 かなり疲労が溜まっているようだ。

「まあ、武上が頑張ったのは事実だし、それでいいんじゃないか」

「実際活躍してくれたしな。ですよね、鷹郷さん?」

「……ああ」

 研究所の皆は武上少年に対して苦笑を漏らしながらも勝利に湧いている。そんな皆と少し距離を置いた俺は……どうしても邪狼狗のことが気になってしまう。

「……」

 鑑定困難なステータス、攻撃が通りづらい肉身、そして何より、跡形もない消失。これら全てがあの兇神、エビルズピークの悪意と共通している。大異形に兇神という異なる世界の2つの存在が同類だとは思えないが……。

 そんなことを1人で考えていると、鷹郷さんがこちらに。

「有馬君、と呼んでいいかな?」

「……はい」

「今回の件、滅失成功は君のおかげだと思っている」

「いえ、皆さんの異能あってのことですから。ところで、滅失、ですか?」

「ああ、異形を消し去ることを我々は滅失と表現するんだ」

 そういう呼称が存在する、ということは。

「異形は討伐されると滅失、消えるのが普通なのでしょうか?」

「全ての異形が消えるわけではない。が、完全消失する個体も少なくはないな」

「……なるほど」

 だったら、邪狼狗の消失もおかしなことじゃない。
 エビルズマリスとの比較は杞憂だったと?
 いや、断定は……?


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