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第10章 位相編

邪狼狗 1

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「功己さん!」

「おおっ」

 飛びつかんばかりに駆け寄って来る幸奈。
 その勢いに思わず後ずさってしまう。

「化け物はどうなったんです?」

「研究所の皆が倒してくれた」

「功己さんは?」

「今回は何もしていない」

「……そうなんですね」

 残念といった表情を浮かべる幸奈。
 俺の心配をしながらも、活躍を期待してたんだな。
 ところで。

「幸奈は見てなかったのか?」

「それが、その、苦手で……」

「ん?」

「蜘蛛が大嫌いなんです。あのカサカサ動く姿を見ただけで寒気がしちゃって」

 知らなかった、気付いてなかった。
 幸奈が蜘蛛を嫌ってるだなんて。

 いや、違う?
 あっちの幸奈は蜘蛛が苦手じゃない可能性もある。
 なら、俺が気付けるはずもない、か。

「それで、眼を瞑ってしまったんです」

「……」

「皆さん頑張ってたのに……ごめんなさい」

「謝らなくていい」

「でも」

「苦手なら仕方ないだろ。それに、そもそも幸奈は研究所員じゃないんだ」

「……」

 ここにいる幸奈の異能は未覚醒。
 なら、異形に対する義務なんてあるわけがない。
 当然、気に病む必要もない。

「だからな、もう気にするな」

「功己さん……ありがとうございます」

 と、話が思わぬ方向に進んでしまったこちらとは違い、武上は。

「里村ぁ、オレが倒してやったぜ!」

 気持ち良いくらいに熱がこもった声で叫んでいる。

「みんなの力での討伐でしょ」

「オレの一撃でとどめを刺したんだ」

「それでも、みんなで倒したんだよ」

「違う、最後はオレだって」

「いつものことだけど、しつこいよ、大志君」

「事実だからだろ!」

「もう~」

 こいつら、ほんと仲がいいな。
 俺のいた世界とは大違いだ。

「ふたりとも、それくらいにしときなさい」

「……」
「……」

 騒がしいふたりのもとに近づいてきたのは古野白さんと鷹郷さん。
 鷹郷さんは俺に一瞥くれた後、すぐ視線を里村少年に向け。

「今回は処理人数が少ない。今からできるな、里村?」

「はい、すぐにでも記憶消去できます。でも、どこに一般人が?」

「路地裏に隠れてもらっている」

「そうなんですね。じゃあ、ここで消しましょうか」

「頼むぞ」

 鷹郷さんの指示で路地裏に足を運んだ植物系異能者が、隠れていた一般人3人を連れて戻ってきた。

 その中のひとりが驚きの表情で里村を見つめている。
 里村も……。

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