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第10章 位相編

眩しい

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 幸奈は、俺の知る幸奈は地下で凄惨な経験をしていない?
 その可能性も十分にあるんだ。

 幸奈が……。
 そうか、そうかぁ……。

「あれ? 聞いてます?」

 もちろん、これは俺の自分勝手な思いにすぎない。
 あの世界の和見屋敷に地下浴槽が存在することも分かっている。
 それでも、幸奈が悲惨な経験をしていないかもしれないと思えるだけで。

「……」

 心が軽くなってしまう。
 安心してしまう。

 こっちの幸奈は苦しんでいるというのに……。


「功己さん?」

「……ああ」

「どうかしました? まさか、怪我を?」

「大丈夫だ、怪我はない」

「だったら?」

「……ちょっと、な」

「ほんとに平気なんですか?」

 こんな所で幸奈に心配かけてどうする。
 まずはこの世界に。
 今この時に集中すべきだろ。

「功己さん?」

「何も問題ない。だから、安心してくれ」

「そうですか。そうですよね、怪我するような危ない場面ありませんでしたもんね」

 まあ……。

「戦闘中も功己さん余裕でしたし」

「……」

「終始圧倒してましたし」

「それは……」

 確かにその通りだが、もう止めてやってくれ。
 武上少年が聞いたら落ち込んでしまう。

「相手がかわいそうだなって思うくらいで」

 駄目だ。
 話を変えた方がいい。

「俺のことより、幸奈はどうだ?」

「えっ? わたし? わたしは別に??」

「観戦中、問題は?」

「……ありません」

「なら、よかった」

「……」

「模擬試合とはいえ、異能の余波を受ける可能性もあるからな」

「ああ、そういうのは全く平気でしたよ」

 ん?
 武上少年たちが訓練場の端に移動している。
 この距離なら幸奈の声も届かないか。
 よし、もう何を喋ってくれてもいいぞ。

「でも、本当に凄かったなぁ。私の知っている功己とは別人でしたもん」

「……」

「あの功己が5年でこんなに強くなるなんて驚きですよ」

 この世界の功己は俺とは違うのかもしれないが、5年ではさすがに難しいんじゃないか。

「5年後が楽しみ」

「……」

「ふふ、今は功己さんに、5年後は功己に守ってもらえるんだ」

 守る……か。

「そう考えると、なんだか心が軽くなってきますね」

「……」

「待ちきれないですよ」

 最初の人生で俺がしなかったこと。
 できなかったこと。
 それを、この世界の功己は?
 俺と違う功己は?

 何を考えてどう行動する?
 俺と同じように我が道を行くのか?
 それとも違う道を歩むのか?

 今の俺には想像もできないことだ。
 けれど……。

「功己さん?」

「ああ、きっと守ってくれるさ」

 そう信じたい。

「ですよね!」

 ただ、今は。

「……」

 にっこりと微笑む幸奈の顔が眩し過ぎて。
 目を逸らさずにはいられなかった。


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