987 / 1,194
第10章 位相編
真実
しおりを挟む
幸奈が着替えた後。
和見家の者に見つかることなく地下室から幸奈を連れ出せたのは幸運だったが、そのまま和見家に留まるわけにはいかない。かといってこの時代には一人暮らしの部屋もない。今の俺が幸奈を実家に連れて行くわけにもいかない。
ということで、選んだのが駅前のビジネスホテル。
その一室で詳しい話を聞くことになった。
「わたし、わたし……ずっと……」
「お父様から……」
「誰にも言えなくて……」
「ひとりで、ずっと……」
最初は渋っていたものの、一言口に出すと後は堰を切ったように感情が溢れ出てくる。
「嫌、だったけど……」
「……」
「怖かったけど、気持ち悪かったけど……」
「……」
「でも、お父様が異能を望むから……」
「わたし……」
話してくれた内容はとんでもないものだった。
古野白さんたちから事情を聞いて幸奈の父親についてはそれなりに分かっているつもりでいたけれど、想像をはるかに超えていた。
そんな話を打ち明けてもらったのに。
「幸奈……」
「……」
「頑張ったな」
「……」
「本当によく頑張った」
衝撃を受けた俺の口から出るのはありきたりな言葉ばかり。
情けない。
「……うん」
それでも、今は。
「もう大丈夫だ」
「……」
「これからは俺が何とかする」
「……ほんと?」
「ああ。だから、安心してくれ」
「うん、うん」
頷く15歳の幸奈。
まだ幼さの残る幸奈。
「うん、うっ、うっ」
その顔が歪んでいく。
「うっ、うっ、うぅぅ」
「幸奈……」
ここまで、よくひとりで耐えてくれた。
本当に、本当に。
「功己ぃ……うぅ、うぅぅ、あぁぁ……」
和見の父が異能を発現させるために行ってきた非道な仕打ち。
それは、幸奈をおぞましい液体に放置するだけじゃなかった。
他家から招き入れた異能者に力を使わせ、幸奈に異能を浴びせるという蛮行まで行っていたんだ。それも、意識を失うほどに強力な異能を何度も何度も。
苦痛の中で異能発現を促すという常軌を逸した行為。
和見の父は日常的にそれを強要していた。
精神的にも肉体的にも耐えがたい苦痛を15歳の幸奈に。
「……」
異能家門の詳しい事情、和見家の実際の親子関係、それらを正確に理解しているわけじゃない。
けど、こんな暴虐を許していいのか?
そんなわけないだろ!
「……」
この世界が過去の世界なのか?
俺の過去とは異なる位相なのか?
それとも幻想のような世界なのか?
本当のところは分からない。
現時点では真実を知る術など存在しない。
それでも、今も目の前で瞳を濡らしている幸奈は……。
彼女は俺の知っている幸奈だ。
どこの世界であっても、大切な幼馴染なんだ。
「うっ、うっ、うぅ……」
「うぅ……」
「……」
「……」
数分は続いたであろう嗚咽の後、少しずつ平静を取り戻していく幸奈。
小刻みに震えていた肩も今はおさまりつつある。
「……ごめん、なさい」
「謝ることはない。幸奈は何も悪くないんだから」
「でも、わたし……」
戸惑いと羞恥、後悔と自責が赤く腫れた瞳に表れている。
「こんなこと話して、こんなに泣いて……」
「聞けて良かった。俺はそう思っているよ」
「……ほんとに?」
「ああ。勇気を持って話してくれたことに感謝している。心からそう思う」
「……よかった」
戸惑いはまだ残っているものの、ようやく光が見えてきた。
和見家の者に見つかることなく地下室から幸奈を連れ出せたのは幸運だったが、そのまま和見家に留まるわけにはいかない。かといってこの時代には一人暮らしの部屋もない。今の俺が幸奈を実家に連れて行くわけにもいかない。
ということで、選んだのが駅前のビジネスホテル。
その一室で詳しい話を聞くことになった。
「わたし、わたし……ずっと……」
「お父様から……」
「誰にも言えなくて……」
「ひとりで、ずっと……」
最初は渋っていたものの、一言口に出すと後は堰を切ったように感情が溢れ出てくる。
「嫌、だったけど……」
「……」
「怖かったけど、気持ち悪かったけど……」
「……」
「でも、お父様が異能を望むから……」
「わたし……」
話してくれた内容はとんでもないものだった。
古野白さんたちから事情を聞いて幸奈の父親についてはそれなりに分かっているつもりでいたけれど、想像をはるかに超えていた。
そんな話を打ち明けてもらったのに。
「幸奈……」
「……」
「頑張ったな」
「……」
「本当によく頑張った」
衝撃を受けた俺の口から出るのはありきたりな言葉ばかり。
情けない。
「……うん」
それでも、今は。
「もう大丈夫だ」
「……」
「これからは俺が何とかする」
「……ほんと?」
「ああ。だから、安心してくれ」
「うん、うん」
頷く15歳の幸奈。
まだ幼さの残る幸奈。
「うん、うっ、うっ」
その顔が歪んでいく。
「うっ、うっ、うぅぅ」
「幸奈……」
ここまで、よくひとりで耐えてくれた。
本当に、本当に。
「功己ぃ……うぅ、うぅぅ、あぁぁ……」
和見の父が異能を発現させるために行ってきた非道な仕打ち。
それは、幸奈をおぞましい液体に放置するだけじゃなかった。
他家から招き入れた異能者に力を使わせ、幸奈に異能を浴びせるという蛮行まで行っていたんだ。それも、意識を失うほどに強力な異能を何度も何度も。
苦痛の中で異能発現を促すという常軌を逸した行為。
和見の父は日常的にそれを強要していた。
精神的にも肉体的にも耐えがたい苦痛を15歳の幸奈に。
「……」
異能家門の詳しい事情、和見家の実際の親子関係、それらを正確に理解しているわけじゃない。
けど、こんな暴虐を許していいのか?
そんなわけないだろ!
「……」
この世界が過去の世界なのか?
俺の過去とは異なる位相なのか?
それとも幻想のような世界なのか?
本当のところは分からない。
現時点では真実を知る術など存在しない。
それでも、今も目の前で瞳を濡らしている幸奈は……。
彼女は俺の知っている幸奈だ。
どこの世界であっても、大切な幼馴染なんだ。
「うっ、うっ、うぅ……」
「うぅ……」
「……」
「……」
数分は続いたであろう嗚咽の後、少しずつ平静を取り戻していく幸奈。
小刻みに震えていた肩も今はおさまりつつある。
「……ごめん、なさい」
「謝ることはない。幸奈は何も悪くないんだから」
「でも、わたし……」
戸惑いと羞恥、後悔と自責が赤く腫れた瞳に表れている。
「こんなこと話して、こんなに泣いて……」
「聞けて良かった。俺はそう思っているよ」
「……ほんとに?」
「ああ。勇気を持って話してくれたことに感謝している。心からそう思う」
「……よかった」
戸惑いはまだ残っているものの、ようやく光が見えてきた。
21
お気に入りに追加
540
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる