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第9章 推理編

手掛かり

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 すぐ目の前、手を伸ばせば届くような距離。
 そう思えるのに、実際は隔絶した空間。

 限りなく遠く感じてしまう。
 無力感だけを覚えてしまう。

 ただ、現状は……。

 どういうわけか、敵の異能者が位相空間から姿を消してしまった。

「……」

 残されたのは幸奈たち4人だけ。
 一度は地に伏した古野白さんと武上も今は立ち上がっている。
 身体に大きな問題もないように見える。

 謎の空間内に取り残され、いつ敵の襲撃があるかもしれないという状況は、もちろん予断を許さないものではあるが……。

 今この時点だけを切り取れば幸いと考えてもいい、のだろうか?

「……」

 もし相手の異能者が攻撃を続けていたら、4人とも無事では済まなかったはず。
 命も危なかったかもしれない。
 そう考えると、やはり幸運なんだろうな。

 とはいえ……。

 敵はどうして4人を残して消えたんだ?
 何か思惑があるのか?
 あるいは単なる軽視、油断か?

「……」

 ほんと、何を考えているのか分からない。
 が、ここが好機であることに違いはない。
 とにかく今はこの謎空間に入ることだ。



 無駄な物などほとんど置かれていない壬生家の地下室。
 侵入の手段については、この部屋に存在する媒介物が鍵となる。
 壬生伊織の言葉を信用するなら、そういうことになるだろう。

「……」

 あやしいのは室内に置かれたソファー、テーブル、そしてテーブル上の雑貨。
 というか、これ以外に鍵になりそうなものは見当たらない。

 数本のペン。
 メモ帳。
 ライト。
 時計、などなど。

 ごく一般的にしか映らない雑貨類。
 これらを調べるだけなのだが……。

 結果は想像通り。
 異空間に繋がる何かを見つけることなんてできなかった。


「……まいった」

 いったい、どうすれば侵入できるんだ?
 まったく糸口が見つからない。
 正直、途方に暮れてしまう。

 はぁぁ。
 もうあやしいものなど何もないのに。

「……」

 ん?
 待てよ。

 そうか。
 これならどうだ?

 ……違うか。

 では、ここをこうして。
 これも違う。

 だったら、これで……。
 おっ、悪くないな。

 さらにこうすると、上手くいくんじゃないのか?

 いいぞ、思った通りだ。

 この後も、今の調子で続ければ。

「……」

「……」

「……」

 よし、ついに手掛かりを見つけることができたぞ。

「ふぅぅ」

 その事実に、思わず安堵の息が漏れてしまう。
 僅かながら肩の力も抜けたように感じられる。

 ここまでかなりの魔力を必要としたが、ようやく先が見えてきた。
 となれば、あと少し。
 この先を探れば、位相空間に入れるはず。
 いや、はずじゃない、きっとだ。

 で、その位相空間。
 今はどうなっている?
 魔力を眼に戻し、前方を眺めてみると……。

「なっ?」

 戦闘中?
 消えたはずの異能者と古野白さん、武上が戦っている?
 手掛かり探しに熱中している間に、敵が戻って来たのか?

 と、それより戦況だ。

「……」

 良くないな。
 特に武上の動きが悪い。
 このままじゃ、結果は明らかだろう。

 上手く古野白さんがサポートできればいいんだが……。


 あっ!?

 敵の一撃が武上に入ってしまった。
 続けて古野白さんにも。




**********************

<古野白楓季視点>



 吾妻の手が振り下ろされる。
 その寸前に発せられた幸奈さんの叫び声。
 すると、不思議な圧力のようなものが押し寄せ……。

 吾妻の手が止まった!?

 攻撃が止まったどころじゃないわ。
 吾妻が完全に動きを止めている。
 私に振り下ろしかけた手もそのままに、静止している?


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