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第9章 推理編
喪失
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<和見幸奈視点>
「えっ?」
どういうこと?
「僕たちを無視して出て行くのか?」
この状況で、置き去りにするの?
信じられない。
でも……消えた。
敵の異能者全員が、この空間から消えてしまった。
こちらを一瞥すらせず、躊躇もなく。
「……」
「……」
**********************
<古野白楓季視点>
「武上君! 幸奈さん、武志君!」
返事はあるの?
分からない。
まったく何も聞こえない。
「……」
目が見えない、耳が聞こえない。
そんな状況は、能力開発研究所の訓練を通して何度も経験している。
異能に関わり、異能者を取り締まる仕事をしている身には当然のこと。
武上君も私も、多種多様の異能に対する訓練を長年積んできたのだから。
でも……。
この異能、この状況は想定外だ。
視覚、聴覚だけでなく嗅覚、触覚、そしておそらくは味覚まで奪われるなんて。
「……」
吾妻と呼ばれる異能者。
研究所の資料には載っていない未知の異能者。
端正な容姿からは想像もつかないような身体強化と、この恐るべき異能を駆使する超絶の存在。
そんな異能者が壬生家についている。
なのに、研究所はそれを認識できていない。
本当?
「……」
一枚岩でないと指摘された研究所組織。
昨日の鷹郷さんの曖昧な態度。
何より、研究所に拘束されているはずの壬生の長兄が和見家に姿を現したという現実。
壬生側に通じる者が組織内にいるの?
しかも、上層部に?
疑惑が確信に近づいていく。
けど今は……。
「……」
それ以上に、底知れぬ恐怖を感じてしまう。
五感の喪失が生む恐怖。
知らなかった。
想像もしていなかった。
「……」
無音、無臭の闇の中。
感覚を失った自身の体が、立っているのか、座っているのか、横たわっているのか、地面に触れているのか、それすらも分からない。
何も感じない。
「……」
人とは、他者との関係の中で自身という存在を認識、確定していくもの。
他との比較で形作っていくもの。
そんな一般論が精神性だけじゃなく肉体にも当てはまることを、今初めて知った。
自身の肉体を認識するためには、外存在との身体的接触が必要なんだと。
人でも地面でも壁でも服でも、何でもいいから触れる必要があるんだと。
それ無しでは、肉体の存在を確信できないと。
多分、そういうものなんだ、と。
「……」
「……」
「……」
私の肉体は存在しているの?
私は、まだ生きてる?
今まさに吾妻に傷を負わされて、瀕死の状態かもしれない。
既に死んでいるかもしれない。
それを知覚できないだけ。
「ああ……」
おかしくなりそうだ。
「……」
そこに在るという実感が消え。
自身の存在に対する自信が消えていく。
存在の不確かな恐怖。
言い知れぬ恐怖。
そんなものが溢れて……。
『古野白さん!』
「……」
『古野白さん!!』
感覚はない。
けれど……何だろう?
確かに感じる。
『何が起こっているんですか?』
五感は消えているのに、これは?
五感外の感覚?
『古野白さん返事をしてください』
「……幸奈さん?」
全く理解できないけれど、間違いない。
幸奈さんが近くにいるんだ。
「えっ?」
どういうこと?
「僕たちを無視して出て行くのか?」
この状況で、置き去りにするの?
信じられない。
でも……消えた。
敵の異能者全員が、この空間から消えてしまった。
こちらを一瞥すらせず、躊躇もなく。
「……」
「……」
**********************
<古野白楓季視点>
「武上君! 幸奈さん、武志君!」
返事はあるの?
分からない。
まったく何も聞こえない。
「……」
目が見えない、耳が聞こえない。
そんな状況は、能力開発研究所の訓練を通して何度も経験している。
異能に関わり、異能者を取り締まる仕事をしている身には当然のこと。
武上君も私も、多種多様の異能に対する訓練を長年積んできたのだから。
でも……。
この異能、この状況は想定外だ。
視覚、聴覚だけでなく嗅覚、触覚、そしておそらくは味覚まで奪われるなんて。
「……」
吾妻と呼ばれる異能者。
研究所の資料には載っていない未知の異能者。
端正な容姿からは想像もつかないような身体強化と、この恐るべき異能を駆使する超絶の存在。
そんな異能者が壬生家についている。
なのに、研究所はそれを認識できていない。
本当?
「……」
一枚岩でないと指摘された研究所組織。
昨日の鷹郷さんの曖昧な態度。
何より、研究所に拘束されているはずの壬生の長兄が和見家に姿を現したという現実。
壬生側に通じる者が組織内にいるの?
しかも、上層部に?
疑惑が確信に近づいていく。
けど今は……。
「……」
それ以上に、底知れぬ恐怖を感じてしまう。
五感の喪失が生む恐怖。
知らなかった。
想像もしていなかった。
「……」
無音、無臭の闇の中。
感覚を失った自身の体が、立っているのか、座っているのか、横たわっているのか、地面に触れているのか、それすらも分からない。
何も感じない。
「……」
人とは、他者との関係の中で自身という存在を認識、確定していくもの。
他との比較で形作っていくもの。
そんな一般論が精神性だけじゃなく肉体にも当てはまることを、今初めて知った。
自身の肉体を認識するためには、外存在との身体的接触が必要なんだと。
人でも地面でも壁でも服でも、何でもいいから触れる必要があるんだと。
それ無しでは、肉体の存在を確信できないと。
多分、そういうものなんだ、と。
「……」
「……」
「……」
私の肉体は存在しているの?
私は、まだ生きてる?
今まさに吾妻に傷を負わされて、瀕死の状態かもしれない。
既に死んでいるかもしれない。
それを知覚できないだけ。
「ああ……」
おかしくなりそうだ。
「……」
そこに在るという実感が消え。
自身の存在に対する自信が消えていく。
存在の不確かな恐怖。
言い知れぬ恐怖。
そんなものが溢れて……。
『古野白さん!』
「……」
『古野白さん!!』
感覚はない。
けれど……何だろう?
確かに感じる。
『何が起こっているんですか?』
五感は消えているのに、これは?
五感外の感覚?
『古野白さん返事をしてください』
「……幸奈さん?」
全く理解できないけれど、間違いない。
幸奈さんが近くにいるんだ。
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