30年待たされた異世界転移

明之 想

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第9章 推理編

離脱

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<壬生伊織視点>



 瘴気漂う和見家の地下室を離れ玄関に向かう足は軽い。

「ふふ……」

 今回も悪くなかったな。
 いや、むしろ想定以上か。

 こんな場所で有馬に貸しを作ることができたし、その能力の一端を垣間見ることもできたのだから。

「……」

 有馬功己。
 異能者ではない超越者。

 橘の瞬間移動や銃撃を一蹴してしまう程の身体能力に加え、揺魂にも耐えうる精神力。耐えるだけじゃない、揺魂に近いものを使うことさえできる。

 さらには、位相の空間を正確に知覚する能力。
 おそらく、まだ見せていない力も……。

 いったい、どれだけの力を隠し持っている?
 本当に恐ろしい男だよ。

「……」

 諦められるわけがないな。
 あんな可能性の塊のような素材を見逃すことなどできるわけがない。
 ならば、手に入れるのみ。
 有馬功己本人もその力も。

 今すぐは無理でも、いつかは必ず。

「……」

 幸いなことに、時間は私の味方だ。
 その時をゆっくり待てばいい。

 今はそう。
 有馬があの空間にどう対処するのか?

「……」

 位相侵入など普通はできるものではない。
 もちろん、私にも不可能なこと。
 有馬といえども、さすがに侵入は……。

 いや、彼ならやってしまうかもしれない。
 その可能性も低くはない、か。

 ふふ……。
 興味深いことだ。


「しかし……」

 今位相に入れば、吾妻と遭遇するはず。
 となると、衝突は避けられない。
 あの2人がここでぶつかるのか。

「……」

 現時点での衝突は想定外。
 とはいえ、予定が早まるのは……。

 そうだな。
 悪いことばかりじゃない。
 何より。

 この対決には、どうやっても心が惹かれてしまう。
 位相の中に入りたくなるというもの。

 ただ、今は予定が入っている。
 彼女との約束を破るわけにもいかない。

 それに、独力での位相空間侵入は不可能だ。
 中の様子を見ることもできない。
 何にしても、空間異能者の能力が必要になるだろう。
 面倒なことだ。

 が……。

 場合によっては力を借りればいい。

「ふふ、ふふふ……」

 有馬さん。
 ぼくは期待してますよ。
 いろいろとね。

 そんなことを考えながら廊下を抜け、玄関を出たところで。

「あら、屋敷の中に入っていたのね?」

「……ええ」

 玄関先に立っていたのは壬生の姉と、配下の異能者数人。

「姉さんは、いつこちらに?」

「少し前に到着したのだけれど、和見の家にはあまり足を踏み入れたくないのよ」

「……」

「伊織君は平気だったのかしら?」

「まあ、何とか」

 確かに、和見の家に漂う空気は気持ちいいものじゃない。
 とはいえ、この暑さの中を外で待つのも辟易する。

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