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第9章 推理編

攻防 3

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<古野白楓季視点>



 私の目の前には壬生家の長兄。
 重力操作という恐ろしい異能の持ち主。
 性格はアレだけど、逃げ場のないこの空間では面倒な相手に違いない。

「どうした? 降参するなら、考えてやるぞ」

「おあいにく様。あなた達と手を組む気はないわ。代わりに、捕縛してあげる。何度だってね」

「ふっ、馬鹿なことを」

「それは、どうかしら」

 馬鹿なのはあなたよ。
 それと……。

「だぁ!」

 ドゴン!

「うりゃ!」

 ガン!

 すぐそこで戦っている……。
 まっ、種類はまったく違うけれどね。

「どうだぁ!」

「ああぁ!」

 武上君、あなたがくれる勇気は本当にありがたいわよ。
 でもね、少しはこっちを見なさい。

「どりゃぁ!」

 ドッガーン!

「……」

 はぁ~。
 ホント、好きに戦ってくれちゃって。


「後悔するぞ」

「……しないわ」

 するわけがないでしょ。

「そうか。後悔しないか」

「ええ」

「ふふ、ははは」

 嫌な嗤い。
 鳥肌が立ってくるわ。

「はは……」

 そんな嗤いを顔に貼り付けたまま、後退する壬生兄。

「偉そうなこと言って、逃げるの?」

「逃げなどしない。直接手を下すまでもないだけだよ」

 代わって前に出てきたのは長身の異能者。
 念動力の使い手だ。

「……」

 他の3人の異能者はというと。
 ひとりは武上君と交戦中。武上君が押しているわね。

 残るふたりは、こっちを眺めているだけ。
 片方は空間異能者だろうから理解できるけど、もう一方は……。

 さっきから全く動くこともなく、表情を崩しもしない。
 能面のようなその表情を保つのは、20代後半と思しき異能者。
 俳優にも劣らぬ端正な顔立ちの男性だ。

 ただし、血の通わない作り物のように見えてしまう。
 秀麗な容姿が、逆にぞっとさせる何かを感じさせてくる。

「……」

 けど、どうして?
 動かない?
 何も仕掛けてこない?

 私の後ろにいる幸奈さんと武志君を放置したまま?

 っと、そっちじゃないわね。
 今の私の相手は念動の異能者。

「……」

 まさに今、壬生兄の前に進み出て、無言でこちらを睨みつけている。
 そんな敵を認識した瞬間。

 発声もなく異能が発現された。
 飛来するのは、小石サイズの鉄球だ。
 が、これまでの攻防からある程度は予測済み。

「っ!」

 素早く反応して左に跳躍、回避に成功。
 この至近距離でも予測していれば避けることもできる。

 と、そこに2発目の鉄球が!

「無駄よ」

 もう一度左に跳躍、したところに3発目。
 着地地点に飛来する鉄球の速度はこれまで以上。

「くっ!」

 着地した脚を折るようにして左に回転。
 転がった私の上を鉄球が通り過ぎていく。

 一回転しても視線は外さず片膝立ちの私に、さらなる鉄球。
 4連続攻撃!

 これじゃ、きりがない。
 それなら。
 右脚を軸にして、回し蹴りの要領で左脚を一閃させる。

 ガン!

 狙い通り、強化靴にヒット。
 蹴り返した鉄球が、勢いを増して念動者のもとへ。

「っ!」

 鉄球は敵に直撃とはいかなかったものの、頬を掠めたようだ。

 思わぬ反撃に怯む異能者。
 敵が攻撃の手を緩めたその隙に、整えた体勢から。

「炎弾!」

 今度はこっちの番。
 炎の弾をお見舞いしてあげる。

「っ!」

「炎弾!」

「くそっ!」

 必死に回避する念動者。
 攻守逆転ね。

「炎弾!」

「炎弾!」

 逃がさない。
 ここで決める。

「炎弾!」

「うぐっ」

 やったわ。
 直撃よ。

 けど、まだ倒せていない。
 だから、とどめを。

「災厄の惨重、昏み眩みて真闇の地に墜ちよ! 極重禍!」

 そう思ったのに、壬生兄の重力操作が!


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