３０年待たされた異世界転移

第９章 推理編

予知

　予知で未来が見えたから。
　自身の無事な姿を確認したから。
　だから、しばらくは危険などない。
　今はそれぞれ大切なことのために行動すべき。

　そう言い切るセレス様に反論もできないまま、別れの時を迎えてしまった。

　が、本当にこれでいいのか？
　危険はないのか？
　予知で見た未来は確定の事実だと？

　そもそも、セレス様が俺を安心させようと偽りの言葉を口にしている可能性だってあるのでは？

　そんな思いを拭い切れないながらも別離に同意したのは、もう１つの予知があったから。幸奈に危険が迫っていると知らされたからだ。

　とはいえ、不安が残るのも事実。

「……」

　同じ危険という言葉でも、こちらと日本では少し意味が異なる。
　日本では、危険という言葉が即命に関わるとは限らない。
　一方、この世界での危険とは命の危険。

　それゆえ、幸奈とセレス様のどちらがより危ないのかと言われると……。

　やはり、長く離れてはいられないか。
　幸奈の安全を確認した後は、セレス様の様子を見るために一度エンノアに戻ることにしよう。その後エンノアを離れるかどうかは……状況次第だな。




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＜メルビン視点＞



「地下での生活にも慣れてきたから、離れるとなると寂しいぜ」

「そうね」

　当初は地下生活に対する不安を隠せなかったエレナとランセルが、今では愛着すら抱いている。それだけ長居したということだろうな。

「メルビンさん、やっぱり彼がエンノアを出たからですよね」

「……」

　答えるまでもない。

「まっ、あの人がいないんじゃ、面白味も半減するしなぁ」

「何言ってるの。仕事に面白味は必要ないでしょ」

　面白味、か。

「そりゃ、そうなんだけどよぉ……。で、今後はエビルズピークですか？」

「ああ、エビルズピーク、ミルトの調査になる」

「また屋根なし生活ですね」

「テントなんだから屋根はあるでしょ」

「そういうことじゃねえって。エレナは機微ってものを勉強した方がいいぞ」

「ランセルの言いたい事くらい分かってるわよ。あなたこそ、愚痴ばかり言って皮肉にも気づけない頭をどうにかしなさい」

「おまえのそれは皮肉じゃねえだろ」

「……はあ～」

「何だぁ！」

　相変わらず元気なやつらだ。

　まあ、元気なのは悪いことじゃない。
　とはいえ今は。

「２人とも、それくらいにしとけ」

　長く滞在したこの地を引き払うには、それなりの時間が必要だろう。
　他愛もない会話にかまけてる場合じゃない。

「四半刻後に出発だ。各自、用意してくれ」

「「「「「「おう」」」」」」