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第9章 推理編

まさか?

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 というわけで、これまで同様の護衛ができるようになったのだが。
 やはり、若干の気まずさが残ってしまう。そんな感情にとらわれている場合じゃないのに、なかなかままならないものだな。

「……」

 ところで、セレス様の傍で護衛を続けると言っても、24時間1秒も離れず一緒にいられるわけではない。睡眠時の隣室待機や生理現象、水浴びの際など。少々距離をとることもある。

 今夜もその水浴びの時間がやって来た。

「では、少し外します。シア、ディアナ、ユーフィリア、頼んだぞ」

 ヴァーンとアルは自分たちの部屋に戻っているので、今室内にいるのは俺と女性3人だけ。水浴びは、室内に運んできた大型の水桶を使って行うことになる。

「はい」
「うむ」
「……」

 寝室を出て、聴覚強化を解除。
 音が聞こえない場所まで離れ、気配感知だけで護衛を続ける。
 もちろん、大した距離ではない。
 走れば数秒もかからない距離だ。

「……」

「……」

「……」

 昨日今日と犯人は探し出せなかったけれど、密度の濃い時間だった。
 しかし、これでしばらくは護衛と捜査に集中できる。

 すべてはセレス様のおかげ。
 本当にありがたいことだよ。

 とはいえ、そう悠長に構えてもいられない。
 捜査に進展がないまま時間が過ぎると、同じことが起こるだろうから。
 そうならないためにも、これまで以上に捜査に専念する必要がある。
 何よりセレス様の信頼に応えないと。

「……」

 魂替で帰還して以降、ずっと落ち着くことのできないセレス様。
 日本でも大変な毎日だったろうに、こちらでも心安らかに過ごせないなんて……。
 本当に申し訳ないことばかりだ。

 その日本に戻った幸奈も……。
 和見家と壬生家の問題が解決していない現状でいつまでも1人にしておくことはできないだろう。

 やはり、一刻も早く犯人を見つけ出すべき。

 などと、考えていると。

「きゃ……ぁぁ……」

 これは悲鳴?
 まさか、襲撃なのか?

「……ぁぁ……!」

 いや、違う。
 怪しい者の気配はない。
 悲鳴もセレス様のものじゃない。

 なら、何だ?
 
 抑えていた聴覚を急いで強化。
 とともに、セレス様のもとへ。


「セレス様、セレス様!!」

 今度ははっきりと聞こえる。
 シアの声に違いない。
 焦りを滲ませながらセレス様を呼んでいるんだ。

 その声に一気に胸が騒ぎ出す。
 最悪の事態が頭を過る。

 震え始めた足を引きずるようにして寝室に入ると。

「セレス様!?」

 ディアナに抱えられたセレス様。
 力なく腕が床に垂れている。
 目が閉じられている。

「先生、セレス様が!」

 毒!?
 ニレキリの毒なのか?
 襲撃者の姿は見えないのに?

「倒れてしまって、意識を失ってしまって!」

 意識を失っている?
 それだけ?
 生きている?

 確かに、喀血の痕跡もない。
 ニレキリの毒じゃない?




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