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第9章 推理編

揺るぎない 2

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「王軍戦の直前など、コーキさんは毎日寝ずに魔法矢と魔法爆弾を作ってくれました。その上、疲弊した身体で戦闘まで。ワディンとは縁も所縁もないコーキさんがです」

「「……」」
「「「……」」」

「ここにいる誰かひとりでも生き残れたと思いますか? コーキさんの力なしで?」

「いえ……」

「そう、無理です。もう何度も命を失っているはずです。それなのに、私たちはみな無事に生きている。こうして不平まで口にできるんです」

「「……」」
「「「……」」」

「人は慣れるもの。良くも悪くも慣れるものです。ワディナート陥落以来、私はそれを痛感しながら生きてきました。ただ、それでも、慣れてはいけないものもある。……あなたたち、コーキさんの力に慣れてませんか? それが普通だと思ってませんか? コーキさんの努力、苦労、そして苦悩を考えたことありますか?」

「「……」」
「「「……」」」

「ないでしょうね。あなたたちはコーキさんを超人だと思っているようですから」

「っ!」
「それは……」
「……」

「その考えは良く分かりますよ。私も最初はそうでしたから。コーキさんを特別な人だと思っていましたから」

「「……」」
「「「……」」」

「でもね、そんな人なんていないんです。努力せず、苦労せず、苦悩せず、それで事を成し遂げる? あり得ません」

「「……」」
「「「……」」」

「話が逸れてしまいましたが……。そのコーキさんがここまで警戒しているのです。何を置いても傍にいて私を護ろうと。そこに根拠がないなんて私には考えることができません」

 実際に起こった現実という何より明確な根拠がある。
 けど、俺はそれを伝えていないのに。

「もちろん、コーキさんが間違えることもあるでしょう」

「「……」」
「「「……」」」

「今回は説明も不足してますし、襲撃者の影も見えません。ですが、コーキさんの行動にはそれ以上のものがあります。真実がそこにあると確信させてくれます」

 確信?
 俺自身が揺らいでいるのに、セレス様は……。

「ですから、私はコーキさんを信じます!」

「「……」」
「「「……」」」

「皆が信じなくとも、妄信と言われようと、私は信じます!」

 そこまで俺のことを。
 自分でも信じられなくなっていた俺のことを、こんなに信じてくれるなんて。

 もう……言葉もない。




「なるほど、妄信ですか」

 セレス様の過激とも思える宣言が数瞬の沈黙を生んだ後、口を開いたのはヴァーン。さっきまでとは明らかに表情が違う。

「あなたの立場でそれは危険ですよ、セレスさん」

「……」


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