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第9章 推理編

歪な信頼

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 セレス様の身に何か起こってないか?
 危険は迫っていないか?

 幻術の火事現場を離れ通路を走る俺の頭に浮かぶのはそればかり。
 もちろん、気配は感知している。セレス様があの場所に留まったままということも確認済みだ。

 それでも、この状況で安心はできない。
 俺を引き離すことが犯人の目的だとしたら、今この時間にも……。

 っ!
 セレス様の後方、通路の奥から誰かが近づいて来る。
 これは、メルビンさんと数名の冒険者の気配?
 彼らがセレス様に何を?

 飛ぶように通路を駆け、最速でセレス様のもとへ……。




*************************

<セレスティーヌ視点>



「ディアナ、アル、どう思います?」

 コーキさんが離れた後。
 残された私とディアナ、アルは通路に立ったまま。火災現場から離れた安全な場所で無事を祈るだけ。今はそれしかできない。

「ユーリアさんのことでしょうか?」

「ええ」

「……」

「……」

 先程聞こえたフォルディさんの悲鳴から察するに、ユーリアさんが火に巻き込まれたのは間違いないだろう。ただ、問題はその後。

「何かあったのは確実だと思います。ですが、安否の方は……」

 ディアナも良い想像はできないようだ。
 それも当然か。
 フォルディさんの叫び声はただ事ではなく、切迫したものだったのだから。

「セレス様、ディアナさん、大丈夫です。コーキさんが駆けつければ何とかなるはずですよ」

「アルはコーキさんを信じているのね」

「それは、まあ……これまでのことがありますし」

 信頼を口にするアルの瞳に揺るぎはない。

「何度も皆の命を救ってくれたのも事実ですので」

「……」

 それなら、最近のコーキさんに対する態度は何だったのか?
 明らかに不信感が滲み出ていたのだけれど?

「確かに、コーキ殿なら……」

 ディアナも同じ。
 今の様子も、最近の態度も。

「……」

 ここしばらくのコーキさんの警戒心が過剰であることは私にも否めない。
 特に模擬試合の日以降の動きは……異常と思えるほどのものだった。

 幻視で危険を感じていた私ですらそうなのだから、ディアナやアル、他の皆が疑心を抱いてしまうのも仕方のないことだとは思う。

 それでも、今まさにアルが口にしたように、相手はコーキさんなのだ。
 幾度も窮地から私たちを救い出してくれたコーキさん、常人が想像もできないようなことを成し遂げ続けるコーキさん。そんな彼が迷いなくとる行動が過剰であっても少々おかしくても、何らかの狙い、深慮があるはず。そう思わずにはいられない。

 それなのに、ディアナもアルも、シアもユーフィリアもヴァーンさんも……。


「セレス様、前方の火勢が緩んできました」

「えっ?」

「緩むどころか、もう火なんてほぼ感じませんよ」

 私が考え事をしている僅かな間に?

「消火が進んだみたいですね」

「だったら、ユーリアさんも」

 そう、ユーリアさんだ。
 コーキさんは彼女を救えたのだろうか?

 いえ、救えたに違いない。
 ディアナ、アルとともに期待しながら通路の先を見つめていると。

「セレスティーヌ様?」

 後方から誰かが?

「……」

 メルビンさんだ。

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