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第9章 推理編

報告

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<メルビン視点>



 この場を連絡所として使うようになってどれくらいになるだろう?
 おそらく10回は越えているはず。それでも、このすえたような匂いと陰鬱な空気には慣れることがない。相変わらず辟易してしまう。
 いくら完全に保護された空間とはいえ……。

 毎度の報告は僅かな時間で済むから良いものの、この場で長時間となると足が遠のきそうだ。


「今回はここまでなのだな?」

「はい、報告は以上になります」

「そうか……」

 ん?

「何か気になる点でも?」

「いや……ご苦労だった」

 この様子、間違いない。
 問題があるのだろう。

「可能なことでしたら修正しますが?」

「……」

「気になるのは、あれですか? それともエンノアの?」

「それらは放置でいい」

「なら、ドラゴンでしょうか?」

「竜種も問題ない。この後についても他の者に任せることになっている」

「では?」

「……」

 話す必要がないと?
 いつも通り、ボスがそう考えるなら従うだけなのだが。
 いまだエンノアに滞在する身としては、なかなか厳しいところだな。

「ふむ……。確かに想定と異なる点もあれば気になる点もある。が、おまえがわざわざ動くことではない」

 やはり具体的には話してくれない、か。
 仕方ない。

「このまま進めれば良いのですね?」

「ああ、既に流れはできておるからな。あとはそう、おまえの裁量に任せよう」

「……承知しました」




*************************




 さらに3日が経過。
 今日で模擬試合から5日になる。

 この3日間、セレス様の身に危険が迫ることはなく平穏な時間が続くばかり。もちろんそれは幸いなことなのだが、犯人特定という点では。

 ニレキリの捜索は簡単にはいかず、魔力干渉可能な者の見当もつかない。
 その上、犯人が動くこともない。当然犯人に近づけるはずもなく……。
 遅々として進まぬ現実に焦りだけが募ってしまう。

「……」

 優先すべきはセレス様の命。
 犯人確保が勝るわけがない。
 極論すれば、セレス様さえ無事なら犯人は逃してもいいんだ。

 分かっている。
 それは分かっているが、ただ、今後に残る禍根がどうしても引っかかって……。


「セレス様、今夜は会議もありませんし、そろそろお部屋の方に?」

「ええ」

 当初は議論百出していたワディン騎士たちによる会議。
 ここにきて、まとまりを見せつつある。おそらくは数日の間に方針が決定されるだろう。決定次第では、セレス様はエンノアを去ることに。

「……」

 セレス様がエンノアを去り犯人と離れることになるなら、犯人を逃すことになる。
 その時が間近に迫っている。


「そういえば、メルビンさんたちの調査も終盤みたいですよ」

「ドラゴンの分身は1頭だけだったようだし、無事に調査を終えられそうね」

「ほんと、皆さん無事でよかったです」

 いつものようにセレス様を護りながら歩を進めるシア、アル、ディアナ、ユーフィリア、ヴァーン。

「ワディンの決定よっては俺たちはエンノアを去ることになる。調査を終えた冒険者たちも同じ。別れが近づいてきたなぁ」

「ヴァーンさん、寂しいのか?」

「なわけねえだろ。ただ、あいつらとは因縁があるからよぉ」

「それを寂しいって言うんだぜ」

「なっ、アル! おめえも因縁あんだろうが!」

「おれはもう気にしてないけど」

「……」

「ふふ……」

「ふふふ……」

「おい、笑うんじゃねえ。シアもアルも!」

 5人による護衛態勢は整っているものの、緊張感はほぼ感じられない。
 この3日でここまで緩んでしまうとは……。


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