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第9章 推理編

信頼

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「……視ていないと思います」

「思う?」

 予知や幻視については断定できないのか?

「睡眠中に予知をした場合、稀に忘れてしまうこともありますので」

 なるほど。
 幻視しても忘れているなら、視ていないのと同義だな。

「それで、お話とは?」


 そこからの説明は、正直かなり苦労した。
 上手く説明できたかどうかも分からない。
 もちろん自信もないが……セレス様は納得してくれたように見える。

「……」

 時間遡行の話をすれば、おそらく簡単に説明できただろう。
 けど、今さらだ。
 もう時間遡行は使えないのに……。

 いや、違うな。
 俺が話したくないだけか。


「コーキさん、この後は?」

 情けないこちらの心とは異なり、真っ直ぐ問いかけてくるセレス様。
 その瞳には信頼以外の何ものも映っていない。

「私はどうすれば良いのでしょう?」

「……今日はいつも以上の警戒をお願いします」

「はい」

「それと、しばらくは私が提供するもの以外は口に入れないでください」

「しばらく?」

「私が良いと言うまでです」

「……分かりました。他には?」

「今日は私の傍にいてもらいます。他の者は、あまり信用しないようにしていただければと」

「それは? シアたちも信用できないということでしょうか?」

「念のためです。シアを信用できないと言っているわけじゃないです」

 こんなこと言われて、いい気はしないだろう。
 ただ、今は安易に他者を信じてはいけない。
 もう失敗は許されないのだから。

「そこまで……」

「はい、細心の注意を払う必要があります」

「食べる物にも、人にも……。そこまでの危機が迫っている?」

「……」

「コーキさんはそう考えているのですね?」

「……はい」

「すぐには信じがたい話です。けど、コーキさんが危険だと言うのですから間違いないのでしょうね」

「……」

「分かりました。私はコーキさんを信じます。信じるだけです」

 ありがたい。
 こんな話を信じてくれるなんて、本当にありがたいことだ。

 セレス様のこの信頼、応えるしかないだろ。






「「「「「「おおぉ!」」」」」

「見事な一撃だったな」
「おう、いい剣だったぜ」
「さすが、ワディン騎士。侮れねえな」
「ああ。下手に油断したら、やられちまうぞ」

 腕試しという名の模擬試合。
 今は1試合目が終わったところ。

「セレス様、すごいですね!」

「ええ、とっても」

 冒険者連中もワディンもエンノアも、皆が盛り上がっている。
 この状態は俺の記憶の中と同じ。
 前回通りに進んでいるようだ。

「次の試合は……また剣の試合みたいですよ」

「そうね。それで、シアは魔法の腕試しには出ないの?」

「はい、セレス様の傍にいます」

「参加したいなら、出ていいのよ」

「いえ、わたしはセレス様の護衛ですから」

「ふふ、ありがとう、シア」

「そんな……」

 シアが模擬試合に出ないのも前回と同様。

「ヴァーンさんとアルは?」

「俺はまあ、どっちでもいいですね」

「おれも」

「いや、アルは出た方がいいぞ。あいつらとの戦いは勉強になりそうだからよ」

「そうかな? だったら、出てもいいかも……」

 些細な違いはあるものの、ヴァーンたちの会話もほぼ前回と同じだ。
 このまま進めば、同じような状況であの時を迎えることになるだろう。

 セレス様……。

 今回は必ず護ります。
 そして、犯人をこの手で!


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