30年待たされた異世界転移

明之 想

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第8章 南部動乱編

ぬくもり

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<セレスティーヌ視点>



「「「「「おおぉ!!」」」」」
「「「「「やったぞ!!」」」」」
「「「「「ディアナぁぁ!!」」」」」

 ディアナの勝利に周りの騎士たちが大騒ぎしている。

「やったぜ!!」

「セレス様、やりました! ディアナさん、勝ちましたよ!!」

 ヴァーンさんもシアも大喜びだ。

「……そう、ね」

 私も嬉しい。
 ディアナのことを誇らしく思う。

 なのに……。

 この感じは?
 胸に走る鈍痛。
 喉が詰まるような感覚は?

「セレス様?」

「……」

 覚えがある。

「セレス様!?」

 記憶の中、いいえ、幻視で覚えた痛みに似ている。

「……ゴホッ」

 咳?
 この咳……!?

 ディアナの試合に夢中になり過ぎて、違和感に気付けなかった。
 でも、今ははっきりと分かる。
 感じてしまう。

 あっ!?

 自覚した途端、急激に体が重くなって……。


「セレス様、お顔の色が!」

「シア……」

「どうされたのですか? お辛いのですか? セレス様、セレス様!!」

「ゴホッ、ゴホゥッ!!」

「「「セレス様!?」」」

「セレスさん!!」

 シア、アル、ユーフィリア。
 そして、ヴァーンさんが私を覗き込んでくる。

「セレス様……」

 コーキさんは真っ青な表情。
 呆然と立ち尽くしている。
 それでも、こちらに手を伸ばして……。

「……」

 なのに、私は。

「ゴホッ、ゴホッ!」

 上手く喋れない。
 咳が止まらない。

「はあ、はあ……」

 やっぱりだ。
 あの症状に似ている。

「ゴホッ……」

 でも、どうして?
 さっきまで何ともなかったのに?
 何もされていないのに?

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!」

 苦しい……。

「「「セレス様!」」」

「治療だ! コーキ、早く魔法を!」

「……」

 温かい光。
 私に降り注いで……。


「あっ」

 少しだけど、呼吸が楽になっていく。

「セレスさん、どうだ? 効いてるか?」

「……はい」

「良かった、コーキの魔法が効いてるぞ!」

 コーキさんの治癒魔法。
 本当に温かい。
 でも、これが幻視と同じ症状なら……。

「セレス様、果実水です。こちらを飲めば咳も和らぐはずです」

「シア……ありがと」

「セレス様……」
 
「うぅ……ゴボッ」

 また咳が。

「ゴホッ、ゴボッ!」

 果実水が喉に入っていかない。

「ゴホッ!」

 杯を持つ手に力が入らない。

「ゴホッ……くるし……ゴホッ、ゴホッ!」

 身体中から力が抜けていく。

「セレス様!?」

 椅子に座っていることもできず、身体ごと地面に倒れて……。

 ガシャーーン!

「「「セレス様ぁぁ!!」」」

「うぅぅ……」

 息ができない。

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホゥッ!!」

 口を押さえた掌に血!?
 喀血!!

「はあ、はあ……うぅ……」

 もう、間違いない。

「ゴホッ!!」

 もう動けない。
 もう、もう……。

「魔法だけじゃ駄目だ!」

「薬を、魔法薬を早く!」

「大丈夫です! 今すぐ薬を用意しますから! 薬を飲めば楽になりますから! だからセレス様……」

 手を取ってくれるのは……シア?
 抱えてくれるのは……コーキさん?

「セレス様、これを!!」

 魔法、薬?
 でも……力が……。

「失礼します」

「うっ! ううぅ……ゴホッ、ゴボォ」

 飲ませてくれた?
 コーキさん?

 魔法薬が喉に、胸に沁みていく……。

「セレス様、楽になりましたか? 楽になりましたよね? ねえ、セレス様!!」

「シア……」

 泣かないで。
 少し楽になったから。

「効いてます? セレス様、効いたんですね!」

「セレスさん、大丈夫だ。魔法薬が効けば問題ねえ」

 シア、ヴァーンさん……。

「あり、がとう」

「セレスティーヌ様、大丈夫です。治りますよ!」

「そうです、きっと良くなります!!」

「「「「「セレス様!」」」」」

 みんな……ありがとう。

 でもね……。

 私は知ってるの。
 今は少し楽になってるけど。
 多分……長くはもたない。


「ゴホッ!」

「もう一度魔法薬を!」

「もっと治癒魔法も!」

「ゴホ、ゴホ、ゴホォッ!!」

 手が、地面が、真っ赤に染まる。

「「「「「「セレス様!!」」」」」」

「「「「「「セレスティーヌ様!!」」」」」」

「……」

「……」

「……」

 やっと、戻って来れたのに。
 これからなのに……。

「ゴホッ……」

 まだ、ここにいたい。
 みんなと一緒にいたい!

「ゴホッ!」

「セレス様!!」

 ワディンも……。
 コーキさんとも……。

 もっと、もっと……。

 ここで私は……。

 悔しい……。

「セレス様!!」

「……」

 悔しい。
 寂しい。
 怖い……。

「ゴホォッ!!」

「セレス様ぁ!?」

 シア……。

「セレス様……」

 コーキ、さん?

 顔を見せ、て……。
 触れさせ、て……。

「ゴホッ……」

 暗い。
 あなた、が、見えない。
 ど、こ?

「……さま!!」

 聞こえ、ない……。
 見えな、い……。

「……さま!!」

 手を、あなた、の顔に……あっ?

 あたた、かい。
 これ、は……コーキさん?

 あな、たの、ぬくもり……。

 ぬくもり、が……。

 ……。

 ……。

 ……。




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