３０年待たされた異世界転移

第８章 南部動乱編

聞き取り ２

「他の冒険者については、メルビンさんを含め全員があの日はテポレン山にも常夜の森にも足を踏み入れていないと。もちろん、嘘を言っている可能性もありますが」

「虚言の可能性？」

「はい」

「そうですか……ですが、今は皆さんの言葉が正しいという前提で話を進めましょう」

「分かりました」

「冒険者の方々は容疑者候補から外せますね」

「まずは、そうなります」

　今のところ物理的に犯行が可能なのはエンノアの民。
　なら、ワディンはどうだ？

「セレス様の方はいかがでした？」

「騎士の中の数名は当時テポレン山にいました。ワディナートを脱出した私の護衛のためです」

「どなたでしょう？」

「それは……」

　躊躇を見せるセレス様の口から出た名前は、ローンドルヌ河以降ずっと行動を共にしている騎士３人のもの。それに加えて。

「ルボルグ隊長にディアナとユーフィリアも？」

「……はい。私の護衛で同行していましたので」

　合計６人があの日テポレン山にいたんだな。

「ただ、その６人とも中腹の手前で別れてしまったのですけれど」

　中腹ということは、俺がセレス様に出会ったあの崖下からはかなり離れている。

「その後、山を上った可能性は？」

「冒険者の皆さん同様、可能性だけは……」

「……」

「あとは、ヴァーンさんとシア、アルですが。コーキさんもご存知の通り、テポレン山の入り口で私を待ってくれていましたから」

　その通りだ。

「可能性ということでしたら３人にもあります」

「……」

「でも、そんなことあり得ません」

「ええ、私も彼らを信じていますよ」

　そもそも、あの場にはギリオンもいたんだ。
　全員が共謀してるなんて、考えられない。

「もちろん、ルボルグ隊長、ディアナ、ユーフィリア、騎士３名のことも私は信じております」

　そうだよな。
　セレス様がワディンの者を疑うなんてできないよな。
　ここまで忠義を尽くしてくれた騎士たちがセレス様を狙っているだなんて思えるわけがない。

　それでもだ。
　今は先入観なしで考える必要がある。


「私からは以上です」

　聞き取りによる状況把握はこれで終了。
　なら。

「犯行の物理的可能性という点で容疑者候補から除外できるのは、ワディン騎士と冒険者たちですね」

「はい。逆に可能性があるのは、エンノアの方々だけかと」

「ただし言葉に嘘があるなら、全員が容疑者のままです」

「全員……」

　もちろん、その全員には俺自身も含まれている。
　そんなことするはずないと思いたいが、精神操作という異能がある以上、可能性だけは……。