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第8章 南部動乱編
同化
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「ただいま……コーキさん」
こちらの思いを理解したような微笑みで話しかけてくれるセレス様。
「……お帰りなさい」
対するこちらは、ぎこちない表情。
「本当に私は大丈夫ですよ」
「……」
「今の状況については概ね理解できていると思いますので」
「現状を、ですか?」
「はい。この地の状況は分かっています。今後の対策を考える必要があるということも」
「それは……」
「こちらにいた幸奈さんの記憶が全て私の中に残っているみたいです」
前回の魂替時と同じ、記憶を共有できると。
しかも直近まで全てを。
それなら話は早いが……。
「ただ、申し訳ありません。魂替に関しては、突然の発動に戸惑っている幸奈さんの感情だけしか……」
やはり、そうか。
今朝の幸奈に日本に戻る意志はなかったんだな。
なのに、魂替が発動した?
「今のこの状態でなぜ入れ替われたのか、私にも分からないことばかりで」
「セレス様、魂替直前に日本で問題はありませんでしたか? 何かおかしな点などは?」
「ええ、特に何も」
何もない。
何も分からない。
これはもう、どうしようもないな。
考えても無駄だ。
なら、今後のことを話し合うべき?
「……」
いや、違う。
その前に、俺にはすべきことがある。
たとえ記憶を受け継いでいたとしても、セレス様に言うべきことが。
「セレス様……辺境伯様のこと、お詫びいたします」
「……」
時間遡行で消えてしまった日本での時間。
昨日セレス様に伝えた全てのことが、遡行で無かったものになっているはず。
当然、辺境伯の最期に対する俺の謝罪も、セレス様の記憶から消えているはず。
なら、まずすべきは謝罪だろ。
「全ては私の不手際です。本当に申し訳ございませんでした」
「コーキさん……謝る必要なんてないですよ」
そう答えるセレス様の顔は、思いのほか軽やかなもの。
昨日は深く沈んでしまったセレス様がどうして?
今、幸奈の記憶から父親の死を知ったばかりなのに?
「お父様のことは……もちろん悲しいです。ですが、私の代わりに幸奈さんが悲しんでくれました。いえ、私以上に悲しんでくれました。その思いが全て残っていて」
「……」
「悲しんで、苦しんで、受け入れて、乗り越えてくれた幸奈さん。その感情と心が私自身のもののように消化されているんです」
知識として残っているだけでなく、自分の思いとなっているのか?
「なので、平気みたいです」
「……」
「本当に不思議な感覚です。幸奈さんの経験を疑似体験しているような」
「そう、なのですね」
「はい。でも、これは疑似体験というより同化に近いのかもしれません。幸奈さんの記憶と感情が私が実際に経験したものになっているような気さえしますから」
疑似体験ではなく同化。
だから、すぐに受け入れることができたと。
確かに、それなら理解できる。
ただ、だからといって俺の不手際が消えるわけじゃない。
「……本当に申し訳ありません」
「ですから、謝罪は不要です。コーキさんの責任ではないのですから」
「しかし」
昨日のやり取りが脳裏によみがえってくる。
また、あの……。
「コーキさんは並行世界という言葉を御存じですか?」
「はい?」
並行世界?
いきなり、どうして?
こちらの思いを理解したような微笑みで話しかけてくれるセレス様。
「……お帰りなさい」
対するこちらは、ぎこちない表情。
「本当に私は大丈夫ですよ」
「……」
「今の状況については概ね理解できていると思いますので」
「現状を、ですか?」
「はい。この地の状況は分かっています。今後の対策を考える必要があるということも」
「それは……」
「こちらにいた幸奈さんの記憶が全て私の中に残っているみたいです」
前回の魂替時と同じ、記憶を共有できると。
しかも直近まで全てを。
それなら話は早いが……。
「ただ、申し訳ありません。魂替に関しては、突然の発動に戸惑っている幸奈さんの感情だけしか……」
やはり、そうか。
今朝の幸奈に日本に戻る意志はなかったんだな。
なのに、魂替が発動した?
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「セレス様、魂替直前に日本で問題はありませんでしたか? 何かおかしな点などは?」
「ええ、特に何も」
何もない。
何も分からない。
これはもう、どうしようもないな。
考えても無駄だ。
なら、今後のことを話し合うべき?
「……」
いや、違う。
その前に、俺にはすべきことがある。
たとえ記憶を受け継いでいたとしても、セレス様に言うべきことが。
「セレス様……辺境伯様のこと、お詫びいたします」
「……」
時間遡行で消えてしまった日本での時間。
昨日セレス様に伝えた全てのことが、遡行で無かったものになっているはず。
当然、辺境伯の最期に対する俺の謝罪も、セレス様の記憶から消えているはず。
なら、まずすべきは謝罪だろ。
「全ては私の不手際です。本当に申し訳ございませんでした」
「コーキさん……謝る必要なんてないですよ」
そう答えるセレス様の顔は、思いのほか軽やかなもの。
昨日は深く沈んでしまったセレス様がどうして?
今、幸奈の記憶から父親の死を知ったばかりなのに?
「お父様のことは……もちろん悲しいです。ですが、私の代わりに幸奈さんが悲しんでくれました。いえ、私以上に悲しんでくれました。その思いが全て残っていて」
「……」
「悲しんで、苦しんで、受け入れて、乗り越えてくれた幸奈さん。その感情と心が私自身のもののように消化されているんです」
知識として残っているだけでなく、自分の思いとなっているのか?
「なので、平気みたいです」
「……」
「本当に不思議な感覚です。幸奈さんの経験を疑似体験しているような」
「そう、なのですね」
「はい。でも、これは疑似体験というより同化に近いのかもしれません。幸奈さんの記憶と感情が私が実際に経験したものになっているような気さえしますから」
疑似体験ではなく同化。
だから、すぐに受け入れることができたと。
確かに、それなら理解できる。
ただ、だからといって俺の不手際が消えるわけじゃない。
「……本当に申し訳ありません」
「ですから、謝罪は不要です。コーキさんの責任ではないのですから」
「しかし」
昨日のやり取りが脳裏によみがえってくる。
また、あの……。
「コーキさんは並行世界という言葉を御存じですか?」
「はい?」
並行世界?
いきなり、どうして?
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