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第8章 南部動乱編
焦り
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「しかし、セレス様は大人気ですなぁ」
「そんなことは……」
「そんなことありますよ。皆、セレス様には美味しい物を食べてもらいたい、楽しんでもらいたいと思っていますので」
「メルビンの言う通り。神娘様でこんなにお美しい方なんだ。普通なら、俺たち冒険者と一緒に飲むなんて考えられないことですし」
「地下だってのに、輝いて見えますからねぇ」
「だな」
ワインと燻製肉の後。
場は賑やかながらも一定の落ち着きを保っている。
空気は悪くないし、おかしな動きも全く見えない。
まさに楽しい宴そのものだ。
「……」
今この場で問題が起こるとは到底思えないよな。
ということは、犯人はこの集団にいないのか?
メルビンさん、エレナさん、ランセルさん、他の冒険者たち。
ディアナ、ユーフィリア、さらに数人のワディン騎士。
そして、ヴァーンと俺。
ここにいる全員が容疑者から外れると?
安心していいと?
いや、さすがに早計に過ぎるな。
まだ時間はたっぷりある。
じっくり考えるべきだ。
それに何より、安心してる場合じゃない。
そもそも、俺の鑑定では判定できない何物かによって害された可能性も考えられるんだぞ。目視も鑑定も不能な呪いの類なんてものだったら恐ろしすぎるだろ。
とにかく、一瞬も目が離せない。
油断できない。
「コーキ殿、厳しい顔だな。何か問題でもあるのか?」
「気になることが?」
問いかけてきたのは、俺の隣にいるディアナとユーフィリア。
「いえ……ちょっと疲れが残っているみたいです」
「うむ、あれだけの働きをしたのだから、疲れているのも当然だ」
「ディアナの言う通り」
「無理せず休んだ方がいい」
「……」
昨日までの王軍戦準備と実戦、今夜の魂替、そしてセレス様の件。
ずっと気の休まる暇もない時間が続いている。
あまり自覚はないものの、確実に疲労が蓄積しているはず。
とはいえ、ここが踏ん張りどころだ。
幸奈を、セレス様を守り切れないと、今まで頑張った意味なんて霧散してしまう。
休めるわけもない。
「しかし、今回はコーキ殿の作戦が完璧でしたねぇ」
「ほんと、まるで未来が読めているようでしたから」
「……たまたま上手くいっただけです」
「偶然であの大軍を退けることなんてできませんよ」
「そうです。魔法矢に魔法の爆弾。その設置場所から発動のタイミングまで、見事なものでした」
「いえ……」
この時間に戻ってから2時間が経過。
時刻は11刻(22時)を過ぎたところ。
今は場所を変え、エンノアやワディン騎士たちと車座になって話をしている。
もちろん、幸奈も隣に一緒だ。
「さすがですよぉ」
俺の正面には、さっきから称賛の言葉を並べてくれるフォルディさん。
その横に祖父である長老のゼミアさんが穏やかな笑みを浮かべ座っている。
さらに、長老補佐のスぺリスさんが隣に座し、サキュルス、ゲオ、ミレンさんといったエンノアの幹部、アデリナさん、ユーリアさんも左右に。
対面するこちらには、俺と幸奈に加え、シア、アルとワディン騎士が数名。
結構な人数が集まっている状態だな。
「ワディンの方々も、そう思うでしょ」
「ええ」
「もちろん」
「コーキ殿がいなければ、我らは今ここにいられませんからね」
「先生のおかげです」
「ああ、おれもコーキさんの力だと思う」
「……」
口々に褒めてくれるのはありがたいが、こっちにはそれに対応する余裕がない。
返答がおざなりで申し訳ない。
「セレス様、杯が空いてますよ。もう少しいかがです?」
「いえ、もうお酒は沢山いただいたので」
「そうですか。では、ヴィーツ水をお持ちしましょう」
ここでも鑑定を用い片っ端から調べてみたものの、毒を見つけることはできなかった。
本当にまったく何も……。
残り時間は半分だというのに、まだ何の手掛かりも掴めていない状況に焦りだけが募ってくる。嫌な汗が滲んでくる。
すると。
「おい、セレス様に座興を見てもらおうじゃないか」
「おう、それはいいな」
「!?」
何が始まるんだ?
ここで何かが起きるのか?
「そんなことは……」
「そんなことありますよ。皆、セレス様には美味しい物を食べてもらいたい、楽しんでもらいたいと思っていますので」
「メルビンの言う通り。神娘様でこんなにお美しい方なんだ。普通なら、俺たち冒険者と一緒に飲むなんて考えられないことですし」
「地下だってのに、輝いて見えますからねぇ」
「だな」
ワインと燻製肉の後。
場は賑やかながらも一定の落ち着きを保っている。
空気は悪くないし、おかしな動きも全く見えない。
まさに楽しい宴そのものだ。
「……」
今この場で問題が起こるとは到底思えないよな。
ということは、犯人はこの集団にいないのか?
メルビンさん、エレナさん、ランセルさん、他の冒険者たち。
ディアナ、ユーフィリア、さらに数人のワディン騎士。
そして、ヴァーンと俺。
ここにいる全員が容疑者から外れると?
安心していいと?
いや、さすがに早計に過ぎるな。
まだ時間はたっぷりある。
じっくり考えるべきだ。
それに何より、安心してる場合じゃない。
そもそも、俺の鑑定では判定できない何物かによって害された可能性も考えられるんだぞ。目視も鑑定も不能な呪いの類なんてものだったら恐ろしすぎるだろ。
とにかく、一瞬も目が離せない。
油断できない。
「コーキ殿、厳しい顔だな。何か問題でもあるのか?」
「気になることが?」
問いかけてきたのは、俺の隣にいるディアナとユーフィリア。
「いえ……ちょっと疲れが残っているみたいです」
「うむ、あれだけの働きをしたのだから、疲れているのも当然だ」
「ディアナの言う通り」
「無理せず休んだ方がいい」
「……」
昨日までの王軍戦準備と実戦、今夜の魂替、そしてセレス様の件。
ずっと気の休まる暇もない時間が続いている。
あまり自覚はないものの、確実に疲労が蓄積しているはず。
とはいえ、ここが踏ん張りどころだ。
幸奈を、セレス様を守り切れないと、今まで頑張った意味なんて霧散してしまう。
休めるわけもない。
「しかし、今回はコーキ殿の作戦が完璧でしたねぇ」
「ほんと、まるで未来が読めているようでしたから」
「……たまたま上手くいっただけです」
「偶然であの大軍を退けることなんてできませんよ」
「そうです。魔法矢に魔法の爆弾。その設置場所から発動のタイミングまで、見事なものでした」
「いえ……」
この時間に戻ってから2時間が経過。
時刻は11刻(22時)を過ぎたところ。
今は場所を変え、エンノアやワディン騎士たちと車座になって話をしている。
もちろん、幸奈も隣に一緒だ。
「さすがですよぉ」
俺の正面には、さっきから称賛の言葉を並べてくれるフォルディさん。
その横に祖父である長老のゼミアさんが穏やかな笑みを浮かべ座っている。
さらに、長老補佐のスぺリスさんが隣に座し、サキュルス、ゲオ、ミレンさんといったエンノアの幹部、アデリナさん、ユーリアさんも左右に。
対面するこちらには、俺と幸奈に加え、シア、アルとワディン騎士が数名。
結構な人数が集まっている状態だな。
「ワディンの方々も、そう思うでしょ」
「ええ」
「もちろん」
「コーキ殿がいなければ、我らは今ここにいられませんからね」
「先生のおかげです」
「ああ、おれもコーキさんの力だと思う」
「……」
口々に褒めてくれるのはありがたいが、こっちにはそれに対応する余裕がない。
返答がおざなりで申し訳ない。
「セレス様、杯が空いてますよ。もう少しいかがです?」
「いえ、もうお酒は沢山いただいたので」
「そうですか。では、ヴィーツ水をお持ちしましょう」
ここでも鑑定を用い片っ端から調べてみたものの、毒を見つけることはできなかった。
本当にまったく何も……。
残り時間は半分だというのに、まだ何の手掛かりも掴めていない状況に焦りだけが募ってくる。嫌な汗が滲んでくる。
すると。
「おい、セレス様に座興を見てもらおうじゃないか」
「おう、それはいいな」
「!?」
何が始まるんだ?
ここで何かが起きるのか?
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