30年待たされた異世界転移

明之 想

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第8章 南部動乱編

好機

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「悪くないですよね、セレスさん?」

「ですが、祝うようなことでは……」

「いえいえ、祝い事だと思いますよ」

「……」

「ヴァーン、いい加減その口を閉じろ! 無礼だぞ!」

「今夜は無礼講だろうが」

「無礼講にも程がある!」

「セレスさんとコーキの関係を祝って何が悪い。いいことじゃねえか! 相変わらず融通の利かねえやつだぜ」

「おまえこそ、立場をわきまえるんだ!」

「今は立場なんて関係ねえな。それによ、コーキなら神娘とも釣り合うんじゃねえの?」

「ワディンの神娘はそんなに軽いものではない!」

「ほう、コーキじゃ不足だと? 何度もセレスさんの命を救ったのに?」

「……」

「ディアナは頭が固すぎる」

「黙れ」

「それに、セレスさんの気持ちも考えた方がいいぞ」

「それ以上言ったら……ただで済むと思うなよ」

 まずいな。
 ヴァーンもディアナも酒のせいか、いつも以上に自制が利かなくなってる。

「おお、どうなるってんだ?」

「体に言い聞かせてやろう!」

「はっ、やれるもんならやってみやがれ!」

「貴様ぁ!」

 もう少し様子を見たいところ、犯人を探したいところだが……。
 さすがに、放置できないか。

「ディアナさん、ヴァーンさん、少し落ち着いてください」

 間に割って入ろうと思った俺に一歩先んじたのは幸奈。

「セレスさん」

「セレスティーヌ様……」

「今は楽しいお酒の席です。喧嘩は止めませんか?」

「ですが、ヴァーンが無礼を」

「わたしは平気です。それに、今夜は無礼講なんですよ」

「……」

「何も問題ありません。ですから、ディアナさんもヴァーンさんも楽しくお酒をいただきましょ」

 さっきまでの幸奈とは別人のように、見事にセレス様を演じている。
 昨日まで以上の振る舞いだ。

「ただし、ヴァーンさん。わたしとコーキさんは本当に話をしていただけですよ」

「そうなんですか?」

「ええ。昼間はちょっと行き過ぎたところもありましたが、あれは感傷的になっていたからで……。ヴァーンさんの考えているような関係ではありませんからね」

「……まあ、セレスさんがそう言うなら」

 ほんと、大したもんだな。

「ははは。皆さん、仲が良くていいですなぁ。ヴァーンさんとディアナさんも気が合うみたいで」

「メルビン殿、それは違う。私がこんな慮外者と気が合うわけがない」

「待て待て、そりゃ、こっちのセリフだぜ」

「やはり、仲がいい。喧嘩するほど仲がいいと言いますし。何より、遠慮なく言い合ってますからね」

「……」

「……」

 こっちもお見事。
 簡単な言葉なのに、場の空気を一変してしまった。
 冒険者としての成功は伊達じゃないってことだろうな。

「メルビンさんの言う通りです。ふたりとも本当は仲が良いのですから、今日は楽しく過ごしましょ。ね?」

「……」

「ねっ、ディアナさん」

「……承知しました」

「ヴァーンさんも」

「……ええ」

「ふふ、よかった」


 この一連の騒ぎに皆の目が集まる中。
 当然、俺は注視を続けている。
 凶行に及ぶ者がいないか、不自然な行動をする者がいないか、横目で探り続けている。

 が……。
 今のところ特に変な動きは見られない。

 そんな状況で、まさに今。

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