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第8章 南部動乱編

宴 2

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「こんな楽しい酒は久しぶりだぜ」
「ああ、生きててよかったぁ」

 既に、決められた席など関係ない状況。
 皆が会場中を動き回って酒を飲み交わしている。

「美味い、美味いぞ!」
「酒だぁ、酒をくれえ!」
「おう、いくらでも飲みやがれ!」

 奇跡ともいる勝利の後、王軍が完全撤退ともなれば宴が盛り上がるのは当然。
 その上、エンノアの民は酒に慣れていないし、ワディン騎士たちにとっても久しぶりの酒だ。早く酔いが回るのも納得できる。とはいえ、宴はまだ中盤だぞ。

 今夜くらいは楽しんでいいと思うが、ちょっと酒を渡し過ぎたか?

「はは、久々の酒は最高だなぁ」

 酒に強いはずのヴァーンまで、もうこの調子だ。

「アル、おまえも飲めぇ! ほろ、もっといけんだろ!」

「あったりまえだ! 今日は飲むぞぉ!!」

 アルもかなり飲んでいる。

「いいじゃねえか」

 ところで、アルは飲酒が許される年齢なんだよな?
 問題ないんだよな?

「ふぅ~~」

 杯を置くことなく一気に飲み干したアル。
 誰も気にしていない。
 なら、まあ……。

「いい飲みっぷりだったぜ」

「当然!」

「アル、無理しちゃだめよ」

「こんくらい、平気だって。ん? 姉さんは飲んでないのか?」

「少し貰っているわ」

「どうしたシア? 今日は飲んでいいんだぞ」

「わたしはいいの。それより、ヴァーンは飲み過ぎよ」

「飲み過ぎじゃねえ。まだまだこれからだぜ」

「……」

 隣の幸奈に困ったような顔を向けるシア。
 ヴァーンとアルの盛り上がりについていけないようだ。

「セレスさんもどうです?」

「そうですねぇ……」

 幸奈は乾杯時に少し口に含んだ程度で、それ以降は酒杯を手にしてもいない。
 記憶が戻った直後で、体調が気になるのだろう。

「めでたい席だから、セレスさんも少しは飲まねえと」

「……分かりました。では、いただきます」

 おい。
 飲んでいいのかよ。

「セレス様、お体の方は?」

「大丈夫、もう平気だから」

「ですが、お酒は控えた方がよろしいかと?」

「少しだけだから。ねっ、シアさん」

 心配するシアを笑顔で宥め、ヴァーンに注がれた酒を口にする幸奈。

「……美味しい」

「おっ、いける口だな、セレスさん」

「ふふ、そうかもしれません」

 そういえば、日本で幸奈が酒を飲む姿を見たことがない。
 ひょっとして、強いのか?

「でも、エンノアのお酒って美味しいのですね」

「そうそう、俺も驚きましたよ。こいつぁ、オルドウの酒より上だってね」

 2人とも違うぞ。
 それは俺が提供した日本の酒だからな。

「さあ、もっといきましょうか」

 さらに酒を注ごうとするヴァーン。

「セレス様、これ以上は……」

「ほんとに大丈夫よ」

「……」

「今日は素敵な日なんですから、シアさんも一緒にいただきましょ」

「セレスさんが言ってくれてんだ。シアも飲めって」

「そうだぜ、姉さん」

「ヴァーン、アル……」

 シアが助けを求めるように俺に視線を投げてきた。
 が、悪い。

「シアも飲んでいいぞ」

「先生……」

 少々盛り上がり過ぎてる感もあるが。
 今夜は特別なんだ。
 みんなの体に問題がないなら今は楽しめばいい。

 それに、飲み過ぎても治癒魔法と回復薬があれば何とかなる。



「何してんだ、コーキ?」

 宴を楽しみつつも今後のことを考えながら皆の様子を眺めていた俺に、ヴァーンが話しかけてきた。もちろん、酒を手に持って。

「飲まねえのか?」

「飲んでるさ」

「いーや、ほとんど飲んでねえなぁ」

 酔ってるくせに、よく見てるな。

「って、そうか、おめえは酒よりアレだよなぁ」

「何のことだ?」

「アレだよ、アレ」

「……」

「ほら、セレスさんの傍にいてやれよ」

「なっ」

「気にすんなって」

 またその話を持ち出すつもりか。

「コーキ、俺は応援してんぞ」

「……」

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