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第8章 南部動乱編

ベニワスレ 3

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<和見幸奈視点(姿はセレスティーヌ)>



『………………一緒に来ようね』

『……時間があったらな』

 音を取り戻した情景。

『約束だよ』

『だから、暇だったらな』

 あぁ……。

 なんて温かい。
 わたしを優しく抱きしめてくれる。

 何度も……。
 何度も聞いた声。
 大好きだった声だ。

『そろそろ帰るか、幸奈』

『うん』

 そうだった!
 わたしは、いつもこの声に救われてきたんだ。
 寂しい時も、悲しい時も、辛い時も。
 悲惨な時でさえも。

「ううぅ……」

 楽しい時も、嬉しい時も、いつも聞いた声。
 聞きたかったのは、この声だけ。

 他の声じゃ駄目だった。
 この声じゃなきゃ。

 わたしは……。

 わたしは……。


 この声がいい!
 あなたがいい!!

 一緒に歩くのも、話をするのも。
 傍に座るのも、手を繋ぐのも、頭を撫でてもらうのも、あなたがいい。
 笑うのも、泣くのも全部。

 あなたと一緒が!
 あなたの隣が!

 紅梅を観るのも……。

 梅を観て綺麗と伝えたいのは、あなただけ。
 あなたひとりだけ。

「ああぁぁ」

 あなたがいい。
 わたしは、あなたがいい!
 あなたが傍にいてくれれば、それだけで!

 ……。

 ……。

 ……。

 止まらない。
 あなたを想う気持ちが止まらない。
 流れる涙を抑えられない。

 頬が熱い。
 胸が痛い。

 こんなにも、こんなにも……。

 なのに、忘れていた。
 わたしは……。

 ずっと呼んでいたのに、あなたの名前を。
 何度も何度もあなたのことを。

 うぅ。
 どうして!?

 ……。

 ……。

 でも……。

 あなたは、こんなわたしを見つけてくれた。
 助けに来てくれた。
 守ってくれた。
 ずっと傍にいてくれた。

 何も思い出せないわたしを支えてくれた。
 最初は素っ気なかなったわたしの横でも、いつも優しく微笑んで。

 今だけじゃない。
 昔からずっと。

 ずっと、ずっと!
 ずっと、ずっと、ずっと!!

 だから、わたしはわたしでいられた。
 何があっても前を向けたの。
 すべて、あなたのおかげ。

「……」

 わたしの嫌いな向こうのわたし。
 本当は、何もかも嫌なところばかり。
 消したい記憶だらけだった。

 そんなわたしを、あなたは優しく受け止めてくれたから。

 汚れたわたしを見捨てることなく。
 駄目なわたしの手を取ってくれたから。

「……」

 優しさを教えてくれたのは、あなた。
 喜びを与えてくれたのは、あなた。

 辛さも、あなたが消してくれた。

 あなたさえいれば、わたしはどこにいても自分でいられた。
 あなたがいなきゃ、わたしは……。

 だからね。
 わたしの心はあなたのもの。
 全てあなたのもの。
 あなただけのもの。

 なのに……。
 なのに、忘れて……。

「ああ」

 あなたのことを忘れて!

「ああぁ」

 痛い。
 心が痛い。

「ああぁぁぁ」

 涙が止まらない。
 上手く息ができない。

「ううぅぅぅ……」

 ごめんなさい。

 ごめんなさい、功己。


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