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第8章 南部動乱編
ベニワスレ 2
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<和見幸奈視点(姿はセレスティーヌ)>
「……」
ここに存在するのは、わたしとベニワスレ。
薄紅とわたしだけ。
依然、「こうばい」の意味は分からない。
溢れ出る感情も、やっぱり理解できない。
ただ、頬を伝う温かな思いは絶えることを知らず。
わたしを優しく誘ってくれる。
その先に見えるのは……。
浮かんでくるのは……。
ひとつの情景。
木々と花の光景。
これはベニワスレじゃない。
テポレン山でもない。
何?
「……」
若木に老樹、あたり一面に鮮やかに咲き誇る薄紅の花弁たち。
たゆたう胡蝶のように舞う淡紅の中……。
若いふたり……?
少年と少女が歩いている?
身に着けているのは制服のような服装。
そんな姿のふたりが少し距離を置いて、ぎこちなく歩いている。
ふたりが会話して。
少女が笑って。
少年ははにかんで。
「……」
優しい空気、幸せな空気が伝わってくる。
いったいこれは?
何なの?
「……」
あっ!
少年が若木の枝を折り、少女に手渡した。
薄紅の花弁を纏った枝だ。
それは……。
まるで、昨日わたしが手にした枝のよう。
ベニワスレの枝にそっくり……。
少女は枝を受け取りながら怒ったような顔をしている。
ほんとは怒っていないのに。
ただ嬉しいだけなのに。
「……」
なぜだか、少女の気持ちが理解できてしまう。不思議……。
一方、少年は少女の思いに気付けない。
後ろを向いて拗ねた表情。
そんな少年に向け少女の口から一言、二言。溢れる思いがこぼれ出ていく。
耳にした少年は戸惑う様子を見せ。
少女は……っ!?
嬉しい。
楽しい。
嬉しい!
幸せ!
嬉しい!!
嬉しい!!!
溢れ出てくる!
多幸感で満たされていく!
その様子を見ているわたしにも、想いが込み上げて……。
喜び?
高鳴り?
歓喜?
表現しがたいほどの感情に包まれ。
心が身体が、ふわふわと浮かんでいく。
幸せに抱かれて、どこまでも高く、高く……。
……。
……。
……。
これは夢?
白昼夢なの?
それとも、まさか……予知?
神娘の力?
分からない。
けど……。
予知ではないと思う。
だったら、やっぱり夢?
ただの夢?
「……」
いい、それでいい。
だから、もう少し。
あと少し感じさせてほしい。
夢なら夢でいいから、醒めないで。
この思いをもっと感じていたい。
少しでも長く……。
……。
……。
少女の言葉に、少年が言葉を返している。
その言葉……。
「っ!?」
聞こえる!?
声が聞こえる!!
「……」
ここに存在するのは、わたしとベニワスレ。
薄紅とわたしだけ。
依然、「こうばい」の意味は分からない。
溢れ出る感情も、やっぱり理解できない。
ただ、頬を伝う温かな思いは絶えることを知らず。
わたしを優しく誘ってくれる。
その先に見えるのは……。
浮かんでくるのは……。
ひとつの情景。
木々と花の光景。
これはベニワスレじゃない。
テポレン山でもない。
何?
「……」
若木に老樹、あたり一面に鮮やかに咲き誇る薄紅の花弁たち。
たゆたう胡蝶のように舞う淡紅の中……。
若いふたり……?
少年と少女が歩いている?
身に着けているのは制服のような服装。
そんな姿のふたりが少し距離を置いて、ぎこちなく歩いている。
ふたりが会話して。
少女が笑って。
少年ははにかんで。
「……」
優しい空気、幸せな空気が伝わってくる。
いったいこれは?
何なの?
「……」
あっ!
少年が若木の枝を折り、少女に手渡した。
薄紅の花弁を纏った枝だ。
それは……。
まるで、昨日わたしが手にした枝のよう。
ベニワスレの枝にそっくり……。
少女は枝を受け取りながら怒ったような顔をしている。
ほんとは怒っていないのに。
ただ嬉しいだけなのに。
「……」
なぜだか、少女の気持ちが理解できてしまう。不思議……。
一方、少年は少女の思いに気付けない。
後ろを向いて拗ねた表情。
そんな少年に向け少女の口から一言、二言。溢れる思いがこぼれ出ていく。
耳にした少年は戸惑う様子を見せ。
少女は……っ!?
嬉しい。
楽しい。
嬉しい!
幸せ!
嬉しい!!
嬉しい!!!
溢れ出てくる!
多幸感で満たされていく!
その様子を見ているわたしにも、想いが込み上げて……。
喜び?
高鳴り?
歓喜?
表現しがたいほどの感情に包まれ。
心が身体が、ふわふわと浮かんでいく。
幸せに抱かれて、どこまでも高く、高く……。
……。
……。
……。
これは夢?
白昼夢なの?
それとも、まさか……予知?
神娘の力?
分からない。
けど……。
予知ではないと思う。
だったら、やっぱり夢?
ただの夢?
「……」
いい、それでいい。
だから、もう少し。
あと少し感じさせてほしい。
夢なら夢でいいから、醒めないで。
この思いをもっと感じていたい。
少しでも長く……。
……。
……。
少女の言葉に、少年が言葉を返している。
その言葉……。
「っ!?」
聞こえる!?
声が聞こえる!!
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