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第8章 南部動乱編

誤算

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<イリアル視点>



「メルビン、奴らの中に上手く入り込んだみてえだな」

「ああ」

「なら、こっからはおまえの仕事だぜ。しっかりやれよ」

「いわれるまでもない」

 テポレン山進攻までは俺の仕事。
 ここから先はメルビンの仕事ってな。

 はあ~~。
 やっと休める。
 楽ができる。

 となるはずだったのによぉ。
 そうもいかねえってのが辛いぜ。

「で、1つ頼みがあんだわ」

「イリアルの上司の件だな」

「察しがいいじゃねえか」

「それ以外なかろう」

 まっ、そうなんだけどよ。

「頼めるか?」

「仕事の邪魔にならないなら考えてやる」

 メルビンが無理なら、俺が直接動くしかない。
 けど、そいつは危険にすぎる。
 今後のことを考えても、今はなるべく近づきたくねえ。
 ただ、どうしてもとなったら……。

 いや、大丈夫だ。
 これまで同様、今回も何とかなるはず。

「メルビン、おまえなら十分やれんだろ」

「どうだかな」

「頼りにしてるぜ」

「……」

 おっ、その表情は。
 無言の肯定ってやつだな。

「……指揮官の方はどうする?」

「ん? あいつか?」

 使える指揮官ではあるものの、この状況になっちまうと。

「まっ、気にしなくていいだろ。って、ボスはどう考えてんだ?」

「まだ話は聞いていない、が……特に変更はないだろうな」

「そうか……。じゃ、トゥオヴィだけよろしく頼むわ」

「ふっ」

「何だ?」

 何笑ってやがる。

「情が湧いたか、イリアル?」

 なっ!

「そんなんじゃねえ。ただ……あいつがいないと今後の仕事がやりづれえからよ」

「……」

「何だ! 嘘じゃねえぞ!」

「分かった、分かった」

 この野郎!

「……」

 むかつく野郎だが、頼りになることだけは間違いねえ。
 しっかりやってくれよ、メルビン。


「ところで、王軍はテポレンの東で待機か?」

「……とりあえず、そうなるだろうぜ」

 分隊長たちも、即撤退という手は取らねえはず。

「けどよ、ちょっとキナ臭い感じもすんだわ」

「ほう~、そんな匂いが?」

「ああ」

 確証はないものの、確かに感じる。

「……」

「で、そっちはどうなんだ? 地下には入れんのかよ?」

「まだ許可は得ていないが、おそらくは」

「おい、おい。ここでミスはあり得ねえぞ」

「……問題ない」

「ほんとかよ?」

「ああ。そんなことより、イリアルは自分の心配をした方がいいな」

「はあ? トゥオヴィの件以外か?」

「ああ、その話じゃない」

「なら?」

 何を心配しろって?

「つい最近カーンゴルムで問題が起こったものでな。おまえには、そっちを担当してもらう予定だ」

 カーンゴルムを担当する。
 トゥレイズ城塞でもなく、領都ワディナートでもない。
 黒都をか?

「……いつからだ?」

「状況が落ち着き次第になるな」

「この戦いを終えて、ワディナートに戻ってからだと?」

「いや、場合によってはテポレンから黒都直行の可能性もある」

「はあ?」

 ワディナートにも戻れねえのかよ。

「黒都の件も急を要するからな」

「……テポレン後はワディナートで休暇を取る予定だったんだが?」

「予定は変わるもの。休暇はその後に楽しめばいい」

 休暇が先になる?
 そんな馬鹿な!

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