30年待たされた異世界転移

明之 想

文字の大きさ
771 / 1,578
第8章 南部動乱編

慢心

しおりを挟む
「逃げるぞ!」
「退却だぁ!」

「ああぁ……」
「負けだ……」
「終わり……」

 前方に見えるのは、逃走を図ろうとする兵士、あるいは絶望に立ち尽くす兵士ばかり。
 士気は地に落ち、戦意も嘘のように消え失せている。
 だというのに。

「止まれ、立ち止まれ!」

「敵の魔道具も残り少ないはず。ここが踏ん張りどころだぞ!」

「まだまだ数では圧倒していることを忘れるな!」

 王軍本陣内に響く複数の声。
 その声に鼓舞されるように変わっていく空気。
 士気が戻ろうとしている?


「やっぱり、普通じゃねえなぁ」

「ああ。どう考えても、おかしいだろ」

 ヴァーンもアルも、ワディン騎士も冒険者も、皆が王軍の異常さに驚きを隠せない。

「扇動の術でも持ってんじゃねえのか?」

「そんな魔道具聞いたことないけど?」

「魔道具とは限んねえぞ」

「……」

「ちっ! また爆弾でも使うか?」

「……」

 王軍が続戦を選択するなら、こっちも躊躇している場合じゃない。
 爆弾でも魔法でも使えるものはすべて使うしかないだろう。

 ただ、どこまでやればいい?
 敵を全滅させるまでか?

 さすがに、そこまでは不可能だ。
 魔道具も魔力ももたない。

 なら……。


「命令系統を破壊すべきだな」

 周りの敵を片付け、ヴァーンの後ろからこちらに歩み寄ってくる剣姫。

「ん? 命令系統?」

「うむ、敵軍の指揮官を始末すればいい」

「王軍は劣勢とはいえ大軍だ。簡単じゃねえぞ」

 その通り。
 指揮官を始末するには、本陣の中に斬り込んで相手を見つけ出す必要がある。
 鑑定持ちの俺でも、簡単にできることじゃない。

「それが難しいというのなら、軍団長クラスを数人でも悪くないな」

「軍団長か……」

「通常なら難しくとも、敵が混乱している状況なら?」

「……」

「アリマと私が共に動けば可能だと思うが?」

「まあ……2人が共闘すればできるかもな」

 確かに。
 試す価値はあるかもしれない。

「けどよ、あんたがそこまでの危険を冒す理由は何なんだ?」

「……借りがある」

「……」

 エビルズピークでの件を剣姫は今でも……。

「当然、勝算もあるがな」

「借りがあって勝算も十分」

「うむ」

「はは、余裕かよ」

「……」

「ってことらしいぜ、コーキ?」

「……イリサヴィア様、よろしいのですか?」

「無論だ」

 剣姫の言葉には微塵の迷いも見えない。
 そうか。
 そういうことなら。

「分かりました。では、もう一度混乱状態を作り出しましょう」

「頼む」

 まずは魔法からだ。

「雷波!」
「雷波!」

「雷撃!」
「雷撃!」




*************************

<王軍指揮官リヒャルド・イゾリンデ視点>



 テポレンに吹く風に揺れる栄光の旗印。
 旗の下にはレザンジュの精鋭たち。
 彼らが東の山道を覆い尽くすかのように陣を構築している。

 我が軍勢の威容は申し分ない。
 短期間でこなすことになった準備も万端。
 怠りもなければ、憂いもない。

 それは軍議に集まった部隊長も同じ。
 いや、私以上だろう。

「……」

 実際のところ、勝敗を気にするような状況ではない。
 この圧倒的な軍勢で敗戦など考えられないのだからな。
 ゆえに、問題になるのは勝ち方のみ。

 いかに損害を抑えるか。
 神娘を無傷で捕らえるか。

 この2つが焦点になる、のだが。

 皆の顔に見えるのは余裕ばかり。
 何とでもなるという思いが透けて見えるほどだ。
 もちろん、開戦前の緊張など一片も感じられない。

「……」

 彼我の戦力差に加え複数の策まで用意している現状で、皆が万全と考えるのは仕方ないこと。そもそも万全と思えるように準備してきたのだから当然といえば当然。

 ただそれでも、懸念がないわけでもない。
 1つはワディンの中にいる凄腕の存在。
 剣も魔法も恐ろしい程の冴えを見せるという。
 個人にできることなどたかが知れているはずだが、油断していい相手ではない。
 十分警戒すべきだろう。

 もう1つは、皆の余裕と表裏一体の慢心だ。



しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

転生チートは家族のために ユニークスキル『複合』で、快適な異世界生活を送りたい!

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...