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第8章 南部動乱編

テポレン山の戦い  38

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<ヴァーン視点>



 西に突如現れた王軍。
 その対応で手一杯だというのに、南から奇襲隊までやって来やがった。
 ほんと、何なんだあいつら!
 あの斜面を上ってくるなんて、信じらんねえぞ。

 けど、事実は事実だ。
 対処する必要がある。

 とりあえず、ディアナたちを防壁内に戻して。
 こっちは残りの者で防ぐしかねえ。

 キン、ガン、キン!!
 ガン、ギン!!

「「ファイヤーボール!!」」
「「アイスアロー!!」」

「「ストーンウォール!!」」

 数を減らしたことで、さらに苦しい戦いになっちまった。
 が、何とか持ち堪えている。
 だから、本陣は死守してくれよ。

 ……と。
 しばらく経ったところで。

 本陣から歓声!?

「ヴァーン殿、襲撃者の撃退に成功したようです」

 そうか、本陣の奴らやってくれたか。
 隊長のその言葉に安堵したのも束の間。

「魔物だぁ!!」
「南から魔物が!!」

 最悪だ!
 今度は魔物の襲撃かよ。
 しかも大群じゃねえか。

 ちっ!
 ブラッドウルフまでいやがる。

 今のところ本陣の防壁前で防げているが、このまま耐えきれるもんじゃねえ。
 こっちも手が足りねえってのに。

 くそっ!
 どうする?
 どうすればいい?

 コーキは……無理か。
 東から離れらんねえよな。
 だったら……。


「くっ!」

「っ!」

「うぐっ!」

 悪夢のような状況に、周りの騎士たちの剣も鈍り始めてる。
 こんな状態じゃあ、西までやられちまうぞ。
 そうなるともう……。

 最悪の結果、最低の情景が頭に浮かんでくる。
 なのに、いい考えは思いつかねえ。

「……」

 と、そこに。
 とんでもねえ光景!?

 東から現れたふたりの剣士が魔物を蹂躙する姿、そんなものが目に入ってきた。
 ふざけた仮面を被ってんのに、怖ろしい剣の冴えだ。
 悠々と魔物を蹴散らしてやがる。

 って、おい!

 青い渦を巻くように、蒼々と舞う濃紺の髪……。
 華麗に踊る蒼剣……。

 っ!?

 剣姫じぇねえか!!




*********************

<長老ゼミア視点>



「上手くいきそうですね」

「ふむ。事はすべて我らの了見通りじゃ」

「幸甚なことに」

 ようやくスぺリスも安堵したか。
 問題ないとどれだけ告げても消えなかった不安が、綺麗に失せておるわ。
 儂の中にあったほんの僅かな憂慮もな。

「……」

「……」

 ここまで不安が消えなかったのも、詮方せんかたないことではある。
 スぺリスは全ての預言を知らぬのだからな。
 無論、他の者よりは詳しく知っておるが、それとて一部にすぎぬ。

 永劫として、ことごとく真実を告げてきた我がエンノアの預言。
 その全てを知っておれば、何も不安に思うことはない。
 懸念など必要ない。

 此度の戦もそう。
 大要は分かっておる。
 そして、事はそのままに運び、今。

 憂事など何ひとつ存在せぬ。

 許せよ、スぺリス。
 直系でないそなたに全てを教えることはできぬのだ。

「……」

 全てを知るは、わしと今はこの地を去った愚息のみ。
 オゥベリール、おぬしがエンノアにおれば……。


「ゼミア様、そろそろあれを」

「……頃合か?」

「コーキ殿から合図が出ましたので」

「ふむ、そうか」

 要らぬことを考えている場合ではないな。

「皆、構えぇ! 撃てぇぇ!!」

 終幕は近いぞ!


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