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第8章 南部動乱編
テポレン山の戦い 1
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1万ものレザンジュ兵がテポレン山に現れてから3日。
俺たちはこれまでにない緊張感を覚えたまま地下に潜み、状況を注視し続けている。
この間に1度だけ俺が単独で偵察を行い、その際に小さな戦闘を起こしてしまったが、敵情視察が目的であったため戦果などは求めず早々と撤退することになった。
それでも、多少の情報を得ることができたので、意味のある偵察にはなったかな。
対する王軍は。
俺たちが地下から姿を現さないため、テポレン山の捜索に明け暮れている。
そんな時間が3日続いているのが現状だ。
「……」
今現在のワディンとエンノアの様子はというと。
このままやり過ごすことも可能なのでは、などといった楽観的な思考が少しずつ現れてきた。
それに伴い、緊張感の中に緩みも若干漂い始めている。
とはいえ、実際のところそれほど状況は芳しくはない。
「……」
奇襲戦を待ち伏せられた先日の戦い。
俺が殿を務め地下に逃れることに成功したあの時、敵は地下への入り口付近まで迫っていた。
王軍としては、敵兵がテポレン山から忽然と消えたわけだから、周辺の探索に力が入るのは当然のこと。
そして現在、また穴を掘るという作戦が展開されている。
エンノアの地下都市、その真上で穴を掘られることも増えてきた。
幸い掘削の規模が小さい現状では、地下に存在する空間まで侵入を許してはいない。
とはいうものの、このまま地盤は崩れないで済むのか?
崩れるとしたら、いつどこで?
何も想像がつかないというのもまた事実。
「……」
地盤が崩れ地下に侵入されたら?
もちろん、地下での戦いになるだろう。
そうなれば、どんな戦いになる?
テポレン山以上に地の利を活かして戦うことができるかもしれない。
ただし、それは侵入経路が一箇所だった場合など状況が限定される。
地下に潜んでいることを知った王軍が、馬鹿正直に一箇所から攻撃を仕掛けてくるだけとは思えない。
多くの穴を掘り、複数の進入路を確保することになるだろう。
桁違いの大軍で複数経路の進軍なんて、簡単に対応できるものじゃない。
地下都市を放棄する覚悟で作戦を立てて良いなら、やりようもあるのだが……。
そんなわけで、今も地下では軍議が開かれている。
「さすがに、あの数とは戦えません。このまま隠れるべきです」
「いや、このまま捜索が続けば、いつか地下への侵入を許すことになる。隠れて済む話じゃない」
「なら、外に出て戦うのか? あの大軍と?」
「この魔道具があれば、1万の敵兵相手だろうが戦える!」
「1万だぞ。分かっているのか?」
「テポレンの地の利を活かせば、何とかなる!」
「そうだ、戦えるぞ!」
「無理だ! 1万という数を考えてみろ」
「私もそう思う。確かに、短時間なら戦えるかもしれないが、1万の大軍で攻め続けられると、魔道具も尽きてしまうからな」
「それなら、地下で戦うというのか?」
「地下が敵に見つかるとも限らないだろ」
「いや、それは……」
こんな具合で、ワディン騎士とエンノアの民による軍議は紛糾してばかり。
いつも以上に結論が出ない状況だ。
「どうするよ、コーキ?」
「……難しいところだな」
エンノアの地下都市の存在が敵に知られることなく逃げ切れるなら、このまま大人しく身を潜めて時を待つというのが最良なんだろうが。
「ヴァーンはどう思う?」
「このまま隠れてるか、外に出て戦うか、地下で迎え撃つか……」
「オルドウや他の都市に逃げるという手もあるだろ」
「それも、簡単じゃねえぞ」
「まあな」
これだけの敵兵に包囲されているんだ。
当然、レザンジュ方面、オルドウ方面への山道も封鎖されているはず。
逃げるなら道なき道を進むことになる上に、麓に敵兵が待ち構えている可能性も高いだろう。
結局、三択になるか。
いや……。
もう1つだけ。
誰にも話していない最終手段が存在する。
それは魔落。
極限の地である魔落なら、あるいは……。
俺たちはこれまでにない緊張感を覚えたまま地下に潜み、状況を注視し続けている。
この間に1度だけ俺が単独で偵察を行い、その際に小さな戦闘を起こしてしまったが、敵情視察が目的であったため戦果などは求めず早々と撤退することになった。
それでも、多少の情報を得ることができたので、意味のある偵察にはなったかな。
対する王軍は。
俺たちが地下から姿を現さないため、テポレン山の捜索に明け暮れている。
そんな時間が3日続いているのが現状だ。
「……」
今現在のワディンとエンノアの様子はというと。
このままやり過ごすことも可能なのでは、などといった楽観的な思考が少しずつ現れてきた。
それに伴い、緊張感の中に緩みも若干漂い始めている。
とはいえ、実際のところそれほど状況は芳しくはない。
「……」
奇襲戦を待ち伏せられた先日の戦い。
俺が殿を務め地下に逃れることに成功したあの時、敵は地下への入り口付近まで迫っていた。
王軍としては、敵兵がテポレン山から忽然と消えたわけだから、周辺の探索に力が入るのは当然のこと。
そして現在、また穴を掘るという作戦が展開されている。
エンノアの地下都市、その真上で穴を掘られることも増えてきた。
幸い掘削の規模が小さい現状では、地下に存在する空間まで侵入を許してはいない。
とはいうものの、このまま地盤は崩れないで済むのか?
崩れるとしたら、いつどこで?
何も想像がつかないというのもまた事実。
「……」
地盤が崩れ地下に侵入されたら?
もちろん、地下での戦いになるだろう。
そうなれば、どんな戦いになる?
テポレン山以上に地の利を活かして戦うことができるかもしれない。
ただし、それは侵入経路が一箇所だった場合など状況が限定される。
地下に潜んでいることを知った王軍が、馬鹿正直に一箇所から攻撃を仕掛けてくるだけとは思えない。
多くの穴を掘り、複数の進入路を確保することになるだろう。
桁違いの大軍で複数経路の進軍なんて、簡単に対応できるものじゃない。
地下都市を放棄する覚悟で作戦を立てて良いなら、やりようもあるのだが……。
そんなわけで、今も地下では軍議が開かれている。
「さすがに、あの数とは戦えません。このまま隠れるべきです」
「いや、このまま捜索が続けば、いつか地下への侵入を許すことになる。隠れて済む話じゃない」
「なら、外に出て戦うのか? あの大軍と?」
「この魔道具があれば、1万の敵兵相手だろうが戦える!」
「1万だぞ。分かっているのか?」
「テポレンの地の利を活かせば、何とかなる!」
「そうだ、戦えるぞ!」
「無理だ! 1万という数を考えてみろ」
「私もそう思う。確かに、短時間なら戦えるかもしれないが、1万の大軍で攻め続けられると、魔道具も尽きてしまうからな」
「それなら、地下で戦うというのか?」
「地下が敵に見つかるとも限らないだろ」
「いや、それは……」
こんな具合で、ワディン騎士とエンノアの民による軍議は紛糾してばかり。
いつも以上に結論が出ない状況だ。
「どうするよ、コーキ?」
「……難しいところだな」
エンノアの地下都市の存在が敵に知られることなく逃げ切れるなら、このまま大人しく身を潜めて時を待つというのが最良なんだろうが。
「ヴァーンはどう思う?」
「このまま隠れてるか、外に出て戦うか、地下で迎え撃つか……」
「オルドウや他の都市に逃げるという手もあるだろ」
「それも、簡単じゃねえぞ」
「まあな」
これだけの敵兵に包囲されているんだ。
当然、レザンジュ方面、オルドウ方面への山道も封鎖されているはず。
逃げるなら道なき道を進むことになる上に、麓に敵兵が待ち構えている可能性も高いだろう。
結局、三択になるか。
いや……。
もう1つだけ。
誰にも話していない最終手段が存在する。
それは魔落。
極限の地である魔落なら、あるいは……。
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