30年待たされた異世界転移

明之 想

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第8章 南部動乱編

再び会議は踊る

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 激しい迎撃戦を終え、幸奈たちと共に地下に到着した後。
 ほんの僅かな休憩を挟んで始まった軍議では、今後の方針についての意見が大きく割れてしまった。

 それらの方針はというと。

 ・散発的な局地的遊撃戦を続ける。
 ・地下に籠り戦闘を控え、しばらく様子を見る。

 これまでにも存在した2つの考えに加え。

 ・魔法矢を全て使って総力戦に打って出る。

 さきほどのクロスボウと魔法矢の威力を見て生まれた新たな方針。
 この第3の方針が加わったことで、軍議は今なお混沌としている。


「魔法矢の効果は抜群ですから、やれます! 正面から攻めましょう!」

「駄目だ、矢の数は限られているんだぞ」

「しかし、今が好機では?」

 エンノアに渡した魔法の矢は700本。
 さっき100本を使ったから残りは600本しかない。
 先のことを考えれば、心許ない数だ。

 しかし、俺の収納の中には通常のクロスボウの矢が2000本残っている。
 それを改造するための材料も揃えている。
 つまり、2000本の魔法矢を作り出すことも可能。
 時間があればの話だが。

「その通り! 敵が浮足立っている今こそが絶好機!」

「俺は賛成だ」

「おまえら……。敵がいつまでも動揺しているわけがないだろ」

「多少動揺がおさまっても問題ない。さっきの戦闘の成果と敵兵の残数を考えればな」

「遊撃戦じゃなく総力戦なんだぞ。矢数の問題はどうする?」

「少しずつ効果的に使えばいい」

「それが難しいって言ってんだ」

「なら、おまえの考えは?」

「遊撃戦を続ける。魔法矢を上手く使えばまだまだやれるはずだからな」

「それこそ危険だ。何より、これ以上遊撃戦を続けても効果は薄い」

「だったら……」

「やはり……」

「いや……」

 同じような内容の議論が続くばかり。

「皆、コーキ殿が言ったことを忘れてないか」

「ここで対峙している王軍だけが俺たちの相手じゃない、トゥレイズやワディナートには数万の大軍が控えている。その大軍がやって来るかもしれないんだぞ」

「……」

「今だけじゃなく、先のことも考える必要がある」

「だから、今は地下に隠れるべきなんだ」

「違うぞ! ここは遊撃戦を続けた方がいい」

「いーや、決戦だ!」

 とにかく、話がまとまらない。
 こうして各々が意見を口にするのは悪いことじゃないとはいえ……。

「……」

 いまだ終わりが見えない軍議の最中。
 俺の目はつい幸奈の方に向いてしまう。

「……」

 さっきの襲撃部隊との戦闘後。
 地下に戻ってくる道中で幸奈と少し話をしたが、以前とは様子が違っていた。
 今もそう。
 明らかに雰囲気が別物だ。

「……」

 気になる思いが止められない。
 ならば、こんな時こそ鑑定を。


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