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第8章 南部動乱編

遊撃戦 4

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「あの場所なら、皆の逃げる時間くらいは稼げます。隊長は皆を率いて地下に戻ってください」

 最悪の場合を想定して、考えていた迎撃地。
 今俺たちが向かっているエンノアへの入り口の近くにあるあそこなら。

「……」
「……」

「迷ってる時間はありません」

 敵兵もすぐそこに迫っている。
 想定の場所も、ここから遠くはない。
 だから、俺に構わず逃げてくれ。

「コーキ殿……」

 ん?
 あれは?

「どうやら、ひとりで戦う必要はないみたいですよ」

「あいつら、出てきたみたいだな」

 地下に残っていたワディンの騎士たちと、エンノアの民の中で戦える者。
 戦力のほぼ全員がこっちに向かって来る。

「どうして……」

 こんな危険なことを?
 完全に想定外だ。

「皆で迎え撃ってやるか?」

「コーキ殿!」

「……」

 遊撃に出ていた俺たちに彼らを加えると兵数は100に近い。
 対する王軍は600から700。

 6、7倍の兵力差だが、地の利はある。
 そこに俺とノワールが加われば。

「これまでの戦いでも、この程度の差なら何とかなったしな」

 兵力差というものは、お互いの数が増えるにつれ厳しさを増してくる。
 それでも、トゥレイズ城塞脱出後の戦闘やローンドルヌ大橋での戦いを考えると……。

「「「追えぇ!!」」」

「「「逃がすなぁ!!」」」

「「「「「「「おお!!」」」」」」」

 今はもう、追撃兵の喊声がはっきりと聞こえる状況。
 接敵までのに時間は残りわずか。

「コーキ! 王軍が追いついてくんぞ。迷ってる時間なんてねえんだろ」

「……分かりました。皆で迎え撃ちましょう」



 最悪の場合を想定し、あらかじめ決めておいた迎撃地。
 複数ある地下への入り口の1つからほど近いこの場所で、俺とノワールが王軍の足止めをするつもりだったのに。
 ワディン騎士、エンノアと共に迎撃戦を行うことになってしまった。


「コーキ殿、この地ならやれますよ!」

 今すぐにでも始まるであろう戦闘でどう動くべきか?
 僅かな時間ながらも知恵を絞っていた俺のもとに近づいて来たのは。

「ゼミアさん!」

 長老が自ら外に?

「ここは危険です。地下に戻ってください」

 長老以外のエンノアは若く戦える者ばかり。
 彼らには戦ってもらうしかないが、長老ともなれば話は違ってくる。

「いえ、私も共に戦いましょう。これでも、エンノアの指揮くらいできますからな」

「……」

「老骨でも役に立ちますぞ」

 確かに、ゼミア長老は老齢とは思えない程の活力を誇っている。
 皆を率いる力にも疑いはない。
 とはいえ……。

「そもそも、地下に戻る時間もありません。コーキ殿、ここは任せてくだされ」

 頷くしかないか。



「それでは、コーキ殿、アレを使ってもよろしいですかな?」

「あれを? この迎撃戦で?」

 左右が険峻な崖と木々に囲まれた狭隘なこの地。
 敵を迎え撃つにはうってつけの場所。
 この地の利を活かせば、数倍の兵力差でも何とかなる。
 さらに、あれを使えば。

 ただ……おそらく、今後はより過酷な戦いが待っているはず。
 その時のために秘匿すべきという考えも捨てきれない。

「数を抑えれば問題ないでしょう。敵も単なる魔道具攻撃と思うだけかと」

「……」

「こっちは、ほぼ全軍出撃状態だからな。ここで出し惜しみして痛い目に合ったら、どうしようもねえぞ」

 ヴァーンの言う通り。
 戦力を温存しても、やられたら意味がない。
 そんなことは、百も承知だ。


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