30年待たされた異世界転移

明之 想

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第8章 南部動乱編

懸念 1

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「早く戻ってセレスティーヌ様に報告しようぜ」
「ああ、安心してもらおう」
「エンノアの皆にもな」

 地下に戻り、初の奇襲作戦の成功に沸くワディン騎士たち。
 彼らの歓声が響き渡る通路には、薄暗さとむき出しの岩肌で覆われた地下空間を忘れさせてくれるような熱気が溢れている。

 興奮冷めやらぬ騎士たちの後ろを歩く俺とヴァーン。
 図らずも目線が交差した。

「……コーキはどう思う?」

「初戦としては申し分ないだろ」

「まっ、そうだよな」

 ワディンの騎士たちとは違い、ヴァーンの顔に喜色は見えない。

「心配か?」

「まあ、な」

 ヴァーンが不安に思っているのは、今後のこと。
 それは現在駐留している2000の王軍だけの話じゃない。

「……」

 地中に留まることが決定してから、ヴァーンとは何度も話をしてきた。今後予想される危険、それに対する策、最良と最悪の想定。俺たちにできること。すべきこと。とにかく、多くのことを話し合った。

 その中でも、特に懸念していたのは兵数の問題。

 仮にこの2000の軍勢を退しりぞけることができたとしても、王軍が駐留するトゥレイズとワディナートにはまだ多くの兵士が残っている。
 なら、次も2000の兵でテポレン山に攻め寄せてくるのではないのか?
 場合によっては、万に達する可能性も?

 一度の勝利など泡沫のようなもの?
 王軍が諦めない限り、数万の王軍を全て倒さない限り、戦いに終わりはないのでは?

 そんな懸念が消せない中での今回の勝利だった。

 奇襲による撃破は一見派手に映るものの、実際は僅かな敵兵を削ったにすぎない。
 2000という数には全く及んでいない。

 序盤における単なる局地的勝利。
 なのに、この味方の浮かれようは……。

 もちろん、ワディン騎士の思いも理解できる。
 それに反するようなヴァーンの不安も。

「……」

 結局。
 兵数の問題に関しては幾度話を重ねても、不安を掻き消すことはできず。
 どこまでも懸念が残ってしまう。

 とはいえ……。

 これが杞憂であれ実憂であれ、今は目の前のことに集中するしかない。
 それもまた厳しい現実だ。


「先のことは、先で考えよう。今はこの難局を切り抜けることだけを考えた方がいい」

「……だな」

 これも俺たちが何度も口にした結論。
 先の数千、数万の軍勢より、まずは足下の2000。
 お互い、それは良く分かっている。

「ただ、あれも気になんだろ」

「……ああ」

 そっちの方か。

 レザンジュ王軍が始めた掘削作業。
 山に進軍してきた兵が地面に無数の穴を掘るなんて、通常の軍事行動としてあり得ることじゃない。

「直接この目で穴を確認したら、異様さが良く理解できたからな」

「……」

「明確な狙いがあるはずだぜ」

 その通り。
 必ず意図が存在する。
 彼らの目的は……。

 普通に考えれば、地中にある何物かの探索しかない。
 つまり、そう。
 まるで地下都市の存在を知っているかのような行動、ってことだ。

「けどよ、あの程度の深さなら問題はねえんだろ?」

「エンノアはそう言ってるな」

 浅い穴を掘った程度で地下都市の存在を確認することなど不可能。
 無論、侵入などできるわけもない。

 ただ、俺が最初にテポレン山でエンノアに遭遇した際。
 剣で地表を打ち抜き、地下に落下したことが事の発端になってしまった。
 ならば、この浅い掘削でも地盤崩落の危険性は考えられる。

 運悪くエンノアの地下都市の上を掘削され、地盤が崩落したら。
 その時は、地下都市の存在が知られてしまうだろう。
 そのまま居住区への侵入を許してしまうことも……。


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