30年待たされた異世界転移

明之 想

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第8章 南部動乱編

テポレン山 2

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<アル視点>



 フォルディさんの後ろを歩く騎士たち全員の眼が輝いている。
 足取りも軽い。

 なのに、セレス様だけは変わることなく暗い表情。
 ずっと何かを考え込んでいる。

 何かって、それはもちろん、あれだろうけど……。

 分かっていても、おれにはかける言葉が見つからない。
 姉さんやコーキさんが話しかけても上の空なんだ。
 おれが何を言っても、今のセレス様に届くとは思えないから。

「……」

 あの事件の直後。
 セレス様はもちろん、おれたち全員が悲しみに深く沈みこんでいた。
 ただただ黙って歩くばかり。
 けれど、状況がそんな歩みを許してくれなかった。
 
 俺たちを追走するレザンジュ王軍。
 時に王軍をかわし、時に戦いに臨む。
 そんな厳しい時間の中で、いつまでも悲しんでいるわけにはいかなかったから。

 ただ、その後の戦いでは連戦連勝。
 大軍相手に、信じがたいほどの戦果を挙げ続け。
 気づけば、皆の顔から悲壮感は消えていた。

 ただ、セレス様は……。 

 だから、おれたちは自然に振る舞うことに決めたんだ。
 そうすれば、セレス様もいつかは元気を取り戻してくれるはず。
 時間がセレス様を癒してくれる。
 そう信じて。

 ん?
 セレス様が立ち止まって何かを見ている。


「……あの花?」

「あちらの薄紅の花弁ですか?」

「はい、何という花なのでしょう?」

 セレス様が尋ねたのは、一本の大木の枝の先に薄く色づいた花。

「ベニワスレという広葉樹です。まだほとんど咲いてませんが、もうすぐ見頃になるはずですよ」

「ベニワスレ……」

 僅かではあるけど、セレス様の表情に色が戻っている。
 薄紅の花弁がセレス様を慰めて?

「この辺りもあと数日で満開になるでしょうから、その時にまたゆっくり楽しんでください」

「……はい」




********************




「「「「「おおぉぉ!!」」」」」
「「「「「何だ、ここは!?」」」」」
「「「「「凄い……」」」」」

 ワディンの騎士たちが驚きの声を上げ固まっている。
 放心状態と言っても過言じゃないな。

「地下にこんな空間が……」
「嘘だろ」
「テポレンの地下に住んでんのかよ」

「しかし、なんて眺めだ」
「綺麗……」

 シアもアルもヴァーンも目を見開いている。
 幸奈もだ。

 まっ、当然か。
 テポレン山中に地下都市があるなんて、皆の想像を超えているだろうからな。

「信じられない」
「ああ」

 そんな彼らの反応は、概ね予想通り。
 ただ、ここまで連れてきたことは。

「フォルディさん、本当に良かったんですか?」

「ええ、長老の許可を得ましたので」

「ですが……」

 今はほぼ使われていないとはいえ、エンノアの居住地は地上にもある。
 なのに、そこではなく地下都市に案内してくれた。
 しかも地下への入り口程度ではなく、地中深くまで。

「コーキさんの仲間の方々ですし。それに、今の状況を聞いて放置はできませんよ」

 しかし、この人数だぞ。

「大丈夫ですって」

「……」

「ボクたちには、コーキさんに対して返せないほどの借りがありますからね」

 そうは言っても、レザンジュ王軍が押し寄せてくる可能性だってあるんだ。
 場合によっては、エンノアに大きな損害を与えてしまうかもしれない。

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