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第7章 南部編
トゥレイズ子爵 1
しおりを挟む<ヴァーンベック視点>
単に俺の杞憂だったか?
いや、しかし。
ここは聞いていた通りの樹林の中。
当然のことながら、木々に遮られて先は見通せねえ。
それに、先遣隊の数が予想以上に多い。
ってことは、奴らも警戒している?
「コーキ、気配はどうだ?」
「彼ら以外に人の気配は……感じないな」
「……」
気配察知は俺より、コーキの方が数段優れている。
そのコーキが言うなら間違いねえ。
やはり、杞憂だったか。
「近くに王軍はいない」
「そう、か」
待ち伏せはない。
今はそう考えていいだろう。
「……」
はは。
今回ばかりは、完全に間違っちまった。
トゥレイズで過ごしてる内に、勘が鈍ったみてえだぜ。
「とはいえ、油断はすんなよ」
「分かってらぁ」
この樹林とトゥレイズ城塞との距離は僅かなもの。
いつ追手が来るか知れたもんじゃない。
まだまだ警戒は解けねえ。
「……」
俺だけじゃなく、皆も分かってるようだ。
セレスさんを囲むように立ってる護衛の面々から緊張感は消えてねえからな。
「トゥレイズ子爵、この度のこと感謝する。卿のおかげで無事に脱することができそうだ」
「いえ、まだこの先がありますから」
「それは、我らと後ほどやってくる後遣隊の者たちで何とかしよう」
「……お気を付けください」
「うむ。卿は……やはりトゥレイズに残るのか?」
「……」
「共にここを脱する気は?」
「私は……トゥレイズを見捨てることはできません。それに、内壁が無事なら持ち堪えられますので」
「そうか……」
「……」
隠し通路の出口近くにいるのが辺境伯と子爵。
俺たちは出口から少し離れてセレスさんを囲んでいる。
さらに、100名近いトゥレイズの兵士たちが俺たちを護るように周囲に立ち並んでいる。
王軍の気配もない現状は、まったくもって安全といえる状況だろう。
「では、我らはここで失礼いたします」
「うむ」
「ああ、その前に……閣下にこれをお返しせねばなりません」
子爵が取り出したのは一振りの長剣。
一目見ただけで、質の高さが分かる逸品だ。
「これは?」
「トゥレイズを拝領した際に、我が祖先がいただいた宝剣です」
それは、つまり。
宝剣を返して、城塞と運命を共にする気だと?
「この刃に誓った忠誠を、こここまで捧げてまいりました」
「……感謝している」
「……」
「卿にも子爵家にもな」
「閣下のその言葉を聞いて我が祖先も喜んでいることでしょう。ですが、それももう……」
「子爵?」
「……お返しいたします」
取り出した剣を、前に差し出す子爵。
「……」
「そして、お別れです!」
「!?」
「「「「「!?」」」」」
なっ!
剣が!?
剣が刺さっている?
伯爵の胸に!
「ぐっ!?」
何で?
何が起こった?
いや、ちゃんと見てたんだ。
俺はこの目で。
子爵が宝剣を鞘から抜き、そのまま伯爵に向けて突き出したって事実を!!
「子爵!?」
宝剣の剣先は辺境伯の左胸の中!!
「私も我が家門もワディン家とは、ここで決別させていただきます」
「な、にを……ゴボッ!!」
「永遠のお別れです」
さらに胸の奥まで宝剣が!
「いやぁぁぁ!!!」
「「「「「閣下ぁ!!!」」」」
「ゴフッ、おのれ……」
「……」
「裏、切ったな!」
宝剣が真っ赤に染まっていく。
単に俺の杞憂だったか?
いや、しかし。
ここは聞いていた通りの樹林の中。
当然のことながら、木々に遮られて先は見通せねえ。
それに、先遣隊の数が予想以上に多い。
ってことは、奴らも警戒している?
「コーキ、気配はどうだ?」
「彼ら以外に人の気配は……感じないな」
「……」
気配察知は俺より、コーキの方が数段優れている。
そのコーキが言うなら間違いねえ。
やはり、杞憂だったか。
「近くに王軍はいない」
「そう、か」
待ち伏せはない。
今はそう考えていいだろう。
「……」
はは。
今回ばかりは、完全に間違っちまった。
トゥレイズで過ごしてる内に、勘が鈍ったみてえだぜ。
「とはいえ、油断はすんなよ」
「分かってらぁ」
この樹林とトゥレイズ城塞との距離は僅かなもの。
いつ追手が来るか知れたもんじゃない。
まだまだ警戒は解けねえ。
「……」
俺だけじゃなく、皆も分かってるようだ。
セレスさんを囲むように立ってる護衛の面々から緊張感は消えてねえからな。
「トゥレイズ子爵、この度のこと感謝する。卿のおかげで無事に脱することができそうだ」
「いえ、まだこの先がありますから」
「それは、我らと後ほどやってくる後遣隊の者たちで何とかしよう」
「……お気を付けください」
「うむ。卿は……やはりトゥレイズに残るのか?」
「……」
「共にここを脱する気は?」
「私は……トゥレイズを見捨てることはできません。それに、内壁が無事なら持ち堪えられますので」
「そうか……」
「……」
隠し通路の出口近くにいるのが辺境伯と子爵。
俺たちは出口から少し離れてセレスさんを囲んでいる。
さらに、100名近いトゥレイズの兵士たちが俺たちを護るように周囲に立ち並んでいる。
王軍の気配もない現状は、まったくもって安全といえる状況だろう。
「では、我らはここで失礼いたします」
「うむ」
「ああ、その前に……閣下にこれをお返しせねばなりません」
子爵が取り出したのは一振りの長剣。
一目見ただけで、質の高さが分かる逸品だ。
「これは?」
「トゥレイズを拝領した際に、我が祖先がいただいた宝剣です」
それは、つまり。
宝剣を返して、城塞と運命を共にする気だと?
「この刃に誓った忠誠を、こここまで捧げてまいりました」
「……感謝している」
「……」
「卿にも子爵家にもな」
「閣下のその言葉を聞いて我が祖先も喜んでいることでしょう。ですが、それももう……」
「子爵?」
「……お返しいたします」
取り出した剣を、前に差し出す子爵。
「……」
「そして、お別れです!」
「!?」
「「「「「!?」」」」」
なっ!
剣が!?
剣が刺さっている?
伯爵の胸に!
「ぐっ!?」
何で?
何が起こった?
いや、ちゃんと見てたんだ。
俺はこの目で。
子爵が宝剣を鞘から抜き、そのまま伯爵に向けて突き出したって事実を!!
「子爵!?」
宝剣の剣先は辺境伯の左胸の中!!
「私も我が家門もワディン家とは、ここで決別させていただきます」
「な、にを……ゴボッ!!」
「永遠のお別れです」
さらに胸の奥まで宝剣が!
「いやぁぁぁ!!!」
「「「「「閣下ぁ!!!」」」」
「ゴフッ、おのれ……」
「……」
「裏、切ったな!」
宝剣が真っ赤に染まっていく。
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