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第7章 南部編
脱出
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<ヴァーンベック視点>
「コーキはどう思う?」
「どうとは?」
「はあ、脱出に決まってんだろ?」
思わず小声で叫んじまったぜ。
「で?」
「……地下通路は問題ないんじゃないか」
「まあ、ここはな」
トゥレイズ子爵邸の地下から城外へと続く通路。
薄暗く狭い空間に充満しているジトっとした湿気とかび臭い匂い。
どうにも気持ち良くねえが、我慢できないほどじゃあない。
何と言っても、この非常事態だからな。
ただ……。
「通路の先は怪しいと思わねえか?」
延々と続く通路を進むと小さな樹林地に出るらしい。
その出口、安全なんだろうな?
王軍が溢れてるとか勘弁してくれよ。
「……子爵が先遣隊を送って安全を確保したと聞いている」
「ならいいが……ここまで周到に手を打ってきた王軍だぜ。ホントにこの隠し通路に気付いてねえのか、それとも?」
「秘密通路の存在は歴代の辺境伯とトゥレイズの領主しか知らないらしいからな。王軍が気付いていない可能性は高いだろ」
「高いってことは、絶対じゃねえってことだ。奴らが気づいてる可能性もある」
「……」
「本音のところは、コーキも疑ってるよな?」
これまで何度も一緒に修羅場をくぐってきた仲だ。
冷静な顔をしていても、俺には隠せねえぞ。
「……それを確かめるのが先遣隊の仕事になる」
ああ。
もちろん、分かってるさ。
「先遣隊からの警告がねえから問題はないってか」
「今はそう考えるしかない」
「いーや、そう思いたいだけだな」
「……」
先遣隊が何も言ってこないからといって、問題がねえとは限らない。
やり様はいくらでもあるんだ。
王軍は難攻不落と言われていたトゥレイズ城塞の外壁を破ったんだぜ。
敵ながら見事なその手際は、おそらくは内通者を使ってのもの。
なら、この脱出。
内通者を通して情報が筒抜けってぇ可能性も。
「今回の脱出を知っているのは信用できる者だけ、のはず」
「全員が信用できんならいいけどよ」
先遣隊は信用できる精鋭のみ。
今この隠し通路を歩いているのも、辺境伯とルボルグ隊長率いる少数の騎士と俺たち、それに子爵とその配下という限られた者だけ。
全ての者が信用に値する。
そういうことになってるが……。
って、まあ。
この程度のことは、コーキも分かってるか。
「そろそろ地上みたいだな」
「おう」
勝負はここからだ。
「用心するとしよう」
「頼むぜ」
俺とコーキが話している先では、ワディン騎士たちが階段を上って地上に出ようとしている。
「……」
「……」
ルボルグ隊長が外に出て行った。
問題は……。
ねえか。
騎士に続いて、子爵と辺境伯。
慎重に外に踏み出して行く。
「……」
外で騒ぎが起きている様子もねえ。
ひとまずは、無事に出れそうだな。
っと。
最後はセレスさんと俺たちだ。
階段を上り、出口から外へ。
っ!
まぶしい!
樹林の中とはいえ、まだ真昼間。
薄暗い通路の中から、いきなり陽光の前に出りゃ目が眩むのも当然。
けど、まいったぞ。
前が見えねえ。
「コーキ?」
「俺は大丈夫だ」
「……」
おまえは、そういうやつだよな。
「お待ちしていました」
「……問題は?」
「はっ、何も問題ありません」
戻ってきた視界に入ってくるのは、子爵と先遣隊のやり取り。
王軍の姿は……見えねえ。
「……」
王軍が現れず、先遣隊によって護られている現状。
安全は確保されている、のか?
全ては俺の杞憂だったと?
「コーキはどう思う?」
「どうとは?」
「はあ、脱出に決まってんだろ?」
思わず小声で叫んじまったぜ。
「で?」
「……地下通路は問題ないんじゃないか」
「まあ、ここはな」
トゥレイズ子爵邸の地下から城外へと続く通路。
薄暗く狭い空間に充満しているジトっとした湿気とかび臭い匂い。
どうにも気持ち良くねえが、我慢できないほどじゃあない。
何と言っても、この非常事態だからな。
ただ……。
「通路の先は怪しいと思わねえか?」
延々と続く通路を進むと小さな樹林地に出るらしい。
その出口、安全なんだろうな?
王軍が溢れてるとか勘弁してくれよ。
「……子爵が先遣隊を送って安全を確保したと聞いている」
「ならいいが……ここまで周到に手を打ってきた王軍だぜ。ホントにこの隠し通路に気付いてねえのか、それとも?」
「秘密通路の存在は歴代の辺境伯とトゥレイズの領主しか知らないらしいからな。王軍が気付いていない可能性は高いだろ」
「高いってことは、絶対じゃねえってことだ。奴らが気づいてる可能性もある」
「……」
「本音のところは、コーキも疑ってるよな?」
これまで何度も一緒に修羅場をくぐってきた仲だ。
冷静な顔をしていても、俺には隠せねえぞ。
「……それを確かめるのが先遣隊の仕事になる」
ああ。
もちろん、分かってるさ。
「先遣隊からの警告がねえから問題はないってか」
「今はそう考えるしかない」
「いーや、そう思いたいだけだな」
「……」
先遣隊が何も言ってこないからといって、問題がねえとは限らない。
やり様はいくらでもあるんだ。
王軍は難攻不落と言われていたトゥレイズ城塞の外壁を破ったんだぜ。
敵ながら見事なその手際は、おそらくは内通者を使ってのもの。
なら、この脱出。
内通者を通して情報が筒抜けってぇ可能性も。
「今回の脱出を知っているのは信用できる者だけ、のはず」
「全員が信用できんならいいけどよ」
先遣隊は信用できる精鋭のみ。
今この隠し通路を歩いているのも、辺境伯とルボルグ隊長率いる少数の騎士と俺たち、それに子爵とその配下という限られた者だけ。
全ての者が信用に値する。
そういうことになってるが……。
って、まあ。
この程度のことは、コーキも分かってるか。
「そろそろ地上みたいだな」
「おう」
勝負はここからだ。
「用心するとしよう」
「頼むぜ」
俺とコーキが話している先では、ワディン騎士たちが階段を上って地上に出ようとしている。
「……」
「……」
ルボルグ隊長が外に出て行った。
問題は……。
ねえか。
騎士に続いて、子爵と辺境伯。
慎重に外に踏み出して行く。
「……」
外で騒ぎが起きている様子もねえ。
ひとまずは、無事に出れそうだな。
っと。
最後はセレスさんと俺たちだ。
階段を上り、出口から外へ。
っ!
まぶしい!
樹林の中とはいえ、まだ真昼間。
薄暗い通路の中から、いきなり陽光の前に出りゃ目が眩むのも当然。
けど、まいったぞ。
前が見えねえ。
「コーキ?」
「俺は大丈夫だ」
「……」
おまえは、そういうやつだよな。
「お待ちしていました」
「……問題は?」
「はっ、何も問題ありません」
戻ってきた視界に入ってくるのは、子爵と先遣隊のやり取り。
王軍の姿は……見えねえ。
「……」
王軍が現れず、先遣隊によって護られている現状。
安全は確保されている、のか?
全ては俺の杞憂だったと?
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