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第7章 南部編

籠城 5

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 籠城8日目。

 ここ数日、戦況は膠着したまま。
 遠距離での攻防だけが続いている。

 ただ、その攻防にも開戦3日目までのような苛烈さはなく、お互いに相手の出方を窺っているようなものばかり。今の王軍はトゥレイズ城壁に接近することもほとんどない。

 こうなると必然、ワディン側の雰囲気も変化してしまう。

 高まる士気と同時に、王軍からトゥレイズを守り切れるという自信と余裕みたいなものが垣間見えるようになってきた。
 緊張感も若干薄れつつある。
 今この城壁の上にいる守備兵たちの様子からも、それは明らかだ。


「あの狙撃手、3日目以来姿を見せないなぁ」

「東壁側への狙撃が無駄だと理解したからだろ」

 ヴァーンとアルも余裕の表情。

「コーキさんとヴァーンさんの2人がいれば鉄壁だから、まあ、そうかも」

「良く分かってるじゃねえか、アル」

「特にコーキさんがいるからだと思うけど」

「おい!」

「冗談だって」

「嘘つけ、本気って顔してるぞ」

「はは……」

 王軍が狙撃をやめた理由は定かじゃないが、実際この東の城壁上を狙い撃ってきたのは開戦後3日目まで。
 以降、王軍からの正確な狙撃はなくなってしまった。

 もちろん、これは籠城するワディン側から見れば悪いことではない。
 むしろ、望ましいことだろう。
 城壁上にいる兵士にとって、正確な狙撃ほど恐ろしいものはないのだから。


「しかしよぉ、狙撃どころか、まともな攻撃すらねえ状態じゃあなぁ」

「ほんと、王軍は気の抜けたような遠距離攻撃ばかりだよ」

「ああ、意味のねえ魔法攻撃だぜ。こんな遠距離から撃っても何の効果もねえってのに」

「何発かは城壁まで届いてるけど、届いてるだけだし」

 現在、王軍はトゥレイズ城壁から400歩以上離れた位置に布陣している。
 200歩辺りまで接近して魔法を放ってくることもあるが、それも破城を狙ったものじゃない。

 おそらく今の段階では、トゥレイズ城塞の破壊など本気で考えてはいないのだろう。

 対するワディン側も王軍に合わせるような攻撃のみ。
 遠距離からの魔法と、たまに城壁に近づいて来た敵兵に魔法を放っているだけだ。

 俺とヴァーンも時折魔法を放っているものの、まったくの散発状態。
 今日放った魔法など、すべて覚えているくらいに少ない。

 その魔法も、こちらを警戒した王軍の堅固な魔法防壁と魔法無効化の魔道具で防がれている。
 そう、数こそ少ないものの、王軍は魔法無効化の魔道具を所持しているみたいなんだ。

 夕連亭で経験した魔法無効化。
 それと同じようなものをレザンジュ王軍が携帯している、と。


「はぁ~、今日も大した出番はないか」

「ん? 今までアルに出番なんてあったか。魔法も使えねえのに」

「それは言わないでくれよぉ……」

 このふたり。
 ちょっと緊張感に欠けてるな。
 気持ちは分かるが、褒められたもんじゃないぞ。

「何をだらけている! 今は籠城戦の最中だと分かってるのか!」

 ほら、こうなった。

「分かってるって。けどよ、この状況じゃあ仕方ねえだろ」

「仕方なくなどない。武人とは常に緊張感を保つものだ!」

「俺は冒険者なんだけど」

「籠城戦に加わっている以上、貴様も軍人だ」

「……っとに、ディアナは融通が利かねえなぁ」

「何だと!」

「何でもねえよ」

「なら、しゃんとしろ」

「へい、へい。アル、真面目にすんだぞ」

「おれに振るなよ」


 この膠着した戦況。
 ヴァーンやアルを含め、ワディン兵たちの気が緩むのも理解はできる。
 ただ、俺たち3人は無理を押して戦闘に参加してるんだからな。
 相応の態度をとるべきだろう。

 それに何より……。

 今のようにあからさまに予定調和な攻防がずっと続くとは到底思えない。
 そんな予感がする。

「……」

 もちろん、王軍がこのままトゥレイズの包囲を続け、ワディンの消耗を待つという作戦も考えられる。
 ワディンの兵糧が尽きるまで戦い続ける可能性も……。



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