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第7章 南部編
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いつになったら幸奈の記憶が戻り、セレス様と入れ替わることができるのか?
余裕のある時間ができると、どうしても考えてしまう。
「……」
その幸奈はというと。
中庭で剣の鍛錬をするアルとヴァーンを眺めている。
とても穏やかで落ち着いた表情、か。
体調不良の父、消息不明の母と兄、自分に降りかかった記憶喪失、スキル喪失。
中身は現代日本人の幸奈が、こんな憂事の連続に真正面から向き合っているんだな。
本当に……。
もちろん、幸奈の中にはセレス様の知識、記憶が存在する。
エビルズピークやローンドルヌ河を経験して、神娘セレスティーヌとしての自覚も芽生え始めているだろう。
それでも、幸奈のしていることは決して簡単なことじゃない。
立派なものだと、心から思うよ。
「セレス様、そろそろ中に戻りませんか? 少し冷えてきましたし」
「ありがとう、シアさん。でも大丈夫。ここまでの旅に比べたら、これくらい何ともないから」
「……」
「本当に平気よ。今は頭痛もほとんどなくて体調も万全なの」
「それなら、良いのですが……」
「シアさんは心配性ね」
「……」
幸奈の頭痛はセレス様としての記憶と関係があるらしい。
ということは、頭痛が治まっている現状は記憶が安定しているから?
いまだ完全に記憶を取り戻していない状態で?
頭痛がないのは良いこと。
とはいえ、このまま安定してしまうと……。
「アル、まだ視野が狭いぞ。コーキにも言われてんだろ」
「……分かってる」
「おまえの集中力は何も問題ねえ。あとは、集中し過ぎず拡散することだ」
以前は何より大事だと考えられていた集中。
ところが最近は、過集中はパフォーマンスを下げると耳にすることも増えてきた。
「集中が過ぎると視野が狭くなるからなぁ」
「だから、分かってるって」
もちろん、集中と拡散の度合いは個々人それぞれ違うだろう。
ただ、俺自身の経験から1つ言えるのは。
過集中は良くないということ。
「けどさ、拡散はヴァーンさんの課題でもあるんだぜ」
「……まあな」
剣における集中と拡散。
この厄介で面倒な課題に、今まさにアルとヴァーンが取り組んでいる。
「ほんと、集中の程度が難しいよ。そもそも、初めて聞いた考えだし」
「ああ」
「剣も学問も集中が過ぎるのは良くないなんてさ」
適度な集中と拡散。
簡単じゃないよな。
「コーキさん、集中と拡散って難しいのですね」
「ええ」
「わたしが祝福を使えないのは、そこが問題なのかも?」
それは違う。
幸奈が神娘の力を使えないのは当然なんだ。
「先生、魔法はどうでしょう?」
魔法は……。
「やっぱり、集中し過ぎると良くないのですか?」
「いや」
魔法に関しては、そう単純な話じゃない。
ただ。
「では、集中した方が?」
「……一撃の威力だけを考えれば集中した方がいい」
魔力を流し、構築、発動する過程での集中は間違いなく効果的だろう。
「シアの場合は、まだ魔法の質を上げることも可能だしな」
「えっ! わたしの魔法は集中で質を上げられるんですか?」
「もちろん」
「本当に……」
余裕のある時間ができると、どうしても考えてしまう。
「……」
その幸奈はというと。
中庭で剣の鍛錬をするアルとヴァーンを眺めている。
とても穏やかで落ち着いた表情、か。
体調不良の父、消息不明の母と兄、自分に降りかかった記憶喪失、スキル喪失。
中身は現代日本人の幸奈が、こんな憂事の連続に真正面から向き合っているんだな。
本当に……。
もちろん、幸奈の中にはセレス様の知識、記憶が存在する。
エビルズピークやローンドルヌ河を経験して、神娘セレスティーヌとしての自覚も芽生え始めているだろう。
それでも、幸奈のしていることは決して簡単なことじゃない。
立派なものだと、心から思うよ。
「セレス様、そろそろ中に戻りませんか? 少し冷えてきましたし」
「ありがとう、シアさん。でも大丈夫。ここまでの旅に比べたら、これくらい何ともないから」
「……」
「本当に平気よ。今は頭痛もほとんどなくて体調も万全なの」
「それなら、良いのですが……」
「シアさんは心配性ね」
「……」
幸奈の頭痛はセレス様としての記憶と関係があるらしい。
ということは、頭痛が治まっている現状は記憶が安定しているから?
いまだ完全に記憶を取り戻していない状態で?
頭痛がないのは良いこと。
とはいえ、このまま安定してしまうと……。
「アル、まだ視野が狭いぞ。コーキにも言われてんだろ」
「……分かってる」
「おまえの集中力は何も問題ねえ。あとは、集中し過ぎず拡散することだ」
以前は何より大事だと考えられていた集中。
ところが最近は、過集中はパフォーマンスを下げると耳にすることも増えてきた。
「集中が過ぎると視野が狭くなるからなぁ」
「だから、分かってるって」
もちろん、集中と拡散の度合いは個々人それぞれ違うだろう。
ただ、俺自身の経験から1つ言えるのは。
過集中は良くないということ。
「けどさ、拡散はヴァーンさんの課題でもあるんだぜ」
「……まあな」
剣における集中と拡散。
この厄介で面倒な課題に、今まさにアルとヴァーンが取り組んでいる。
「ほんと、集中の程度が難しいよ。そもそも、初めて聞いた考えだし」
「ああ」
「剣も学問も集中が過ぎるのは良くないなんてさ」
適度な集中と拡散。
簡単じゃないよな。
「コーキさん、集中と拡散って難しいのですね」
「ええ」
「わたしが祝福を使えないのは、そこが問題なのかも?」
それは違う。
幸奈が神娘の力を使えないのは当然なんだ。
「先生、魔法はどうでしょう?」
魔法は……。
「やっぱり、集中し過ぎると良くないのですか?」
「いや」
魔法に関しては、そう単純な話じゃない。
ただ。
「では、集中した方が?」
「……一撃の威力だけを考えれば集中した方がいい」
魔力を流し、構築、発動する過程での集中は間違いなく効果的だろう。
「シアの場合は、まだ魔法の質を上げることも可能だしな」
「えっ! わたしの魔法は集中で質を上げられるんですか?」
「もちろん」
「本当に……」
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