30年待たされた異世界転移

明之 想

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第7章 南部編

撤退

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 幸奈を見つけたローンドルヌ河の中洲。
 岸に上陸し、ユーフィリアと共に戦うイリアルが目に入ってきた時。
 驚きで息を呑んだのを、はっきりと覚えている。
 
 近くにウラハムがいるのじゃないか?
 また魔眼で視られるのでは?
 不安が瞬時に押し寄せてきたから。

 その予感通り、ウラハムも中州にいた。
 ただ、俺がその姿を確認したのは。
 彼がこと切れた後だった。

「……」

 もしも、ウラハムが無事だったら。
 彼の眼から逃れ続ける必要があっただろう。
 あるいは……。

 けど、もう、そんな心配も無用。
 露見を恐れることもない。
 王軍から逃げる必要も……。

 人の死に安心するなんて。
 我ながら浅ましく、卑しく利己的なことだと思う。
 20年前の潔癖な俺なら許容できなかったはず。

 ただ、今の俺は多くの経験を積んでいる。
 敵兵の死も、魔物の死も、何より大切な人の死も。

 人の命が軽いこの厳しい世界で生きているんだ。
 いつまでも潔癖ではいられない。

 そう。
 清濁を知る必要がある。

 だから……。

 本当に、今回は幸運だったと思う。




***********************

<イリアル視点>



「ワディナートまで撤退するんですか?」

「うむ。この状況では戻るしかあるまい」

「そうですけどねぇ」

「……すまない。私の責任だ」

「……」

 あの日、中洲から脱出した後。
 ローンドルヌ大橋に戻った時には、既に戦闘は終了していた。
 まさかの敗戦で……。

 それでも、指揮官であるトゥオヴィは生き残り、半数以上の部下も無事だったんだ。最悪の事態を免れることだけはできた。

 そう思っていたのに。
 トゥオヴィの落ち込む様子は、この世の終わりのよう。

 まあな。
 彼女が背負っているモノを考えれば、納得はできるけれど……。


「今回の仕掛けは完全に読み違いだった。己の幻術を過信していた」

「敵には恐ろしい従魔がいたんでしょ。それに予想外の高威力広範囲の攻撃魔法を使われ、さらには幻術まで破られて」

 最初は驚いた敗戦も。
 話を聞くと、やむなしって感じだろ。

「あのダブルヘッド……」

「俺はほとんど見てませんが、普通のダブルヘッドじゃなかったんですよね」

「ああ、おそろしい動きだった」

「攻撃魔法も」

「我らの魔法以上の威力があったな」

 ほら。
 負けてもおかしいことじゃない。

「今回は想定外が多すぎたってことです。トゥオヴィ様の責任ではないと思いますよ」

「いや、指揮官である私の責任だ。私のせいで多くの部下を……」

 指揮官の責任って言やあ、戦闘なんて全てその通りなんだけどな。

「申し訳ない」

 仕方ない面もあるんだ。
 だからよ。
 いい加減、その辛気臭い顔はやめてくれねえか。
 ただでさえ、こっちは疲れてんのに。

「……」

 激流の中、ウラハムを助けて。
 中洲でマッドアリゲーターと戦って。
 疲労した体で河を泳ぎ渡って、こっちに合流したんだぜ。

 って、ウラハムは死んじまったか。
 まっ、俺としちゃあ、魔眼を確保できたから問題ねえけど。


「ウラハムも亡くしてしまった。貴重な魔眼も……」

 ウラハムの死は、あいつ自身の問題だぞ。
 大橋から落ちたのは明らかにやつの失態だからな。

「ただ……イリアルが無事で良かった」

「いえ、俺がついていながらウラハムを亡くしてしまったので」

「それでもだ。君だけでも無事で本当に……」

「……」

 そう言われて悪い気はしねえ。
 が、微妙な気持ちになっちまう。

「もう魔眼には頼れないな」

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