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第7章 南部編
魔眼
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<トゥオヴィ視点>
天幕を出て行くコーキ殿を見送った後。
「いいんですか?」
不満気な表情を隠そうともしないイリアル。
「トゥオヴィ様?」
「……」
いいも悪いもないな。
「ウラハムはどうなんだ? おまえが見抜いた相手だぞ。納得してんのか?」
「……あれはもう仕方ない。イリアルも見ただろ、エリシティア様が命の恩人とまで明記されていた文面をな」
「……」
ウラハムの言う通り。
コーキ殿はエリシティア様が便宜を図るようにと強く求めている人物だ。
そんな彼を疑いがあるというだけで留め置くことなど、私にはできない。
「けどよ、このタイミングで、あの腕利きがトゥレイズに向かってんだぞ。姫様の恩人だろうが、あやしいことに変わりはないぜ」
「あやしいだけじゃ、どうしようもない。おまえも分かってるはずだ」
「……」
頭で分かっていても納得はできない。
イリアルのその気持ちもよく理解できる。
結果を残さねばならぬローンドルヌ河駐留で、我らはまだ何も手にしていないのだから。
ただ、そうは言っても。
「コーキ殿はワディンの者ではない」
我らが重視する獲物は、まずは辺境伯の係累、次にワディン騎士。
「ならば、仮にトゥレイズに入られたとしても、我らにとって大きな失態にはなるまい」
「……」
うん?
イリアルは、失態になると考えているのか?
いや……さすがにないな。
それに、一応。
「コーキ殿には尾行をつけている」
「なるほど、尾行ですか。でしたら、ひとまずは様子見ということで?」
「うむ。とはいえ、尾行が通用する相手なら警戒するほどでもないがな」
「確かに、そうですね」
尾行できるなら好し。
振り切られても、それでも、1人の冒険者に過ぎない。
「いずれにせよ、我らの脅威にはならないだろう」
「そりゃ、そうでしょ。1人でレザンジュ全軍の脅威になるわけありませんよ」
全軍?
当たり前だ。
「で、ウラハムの眼には、どう映った?」
そう。
まずは、そこを詳しく聞かねばならん。
「恐ろしい手練れだな」
「手練れだってのはもう聞いてる。もっと具体的に、どの程度か教えてくれ」
「彼がその気になれば……」
「ああ、本気になればどうなんだ?」
「この天幕にいる全員を瞬殺できる。それくらいだと思えばいい」
何!?
私とイリアルの魔法、ウラハムの魔眼をもってしても瞬殺されると?
そこまでなのか?
「おいおい、ホントかよ?」
「ああ、じっくりと観察したからな。この眼を信じるなら、そういうことになる」
「なら、さっきは危なかったんじゃねえか?」
「一歩間違っていたら、そうかもな」
「……」
にわかには信じがたいが。
魔眼持ちのウラハムが視たのだから、間違いないのだろう。
「おまえ、一言くらい言っとけよ! 無理やり引き留めてたら殺されてたとこだぞ!」
「橋の上ではあまり視えなかったから、前もって伝えるのは無理だ」
「そういうのは、気付いた時点で言えって! トゥオヴィ様まで危険な目に遭わせるつもりか!」
ウラハムが危険だと感じていたなら、伝えていたはず。
言葉にしなかったということは、つまり。
「いや、そこは問題ない」
ということだ。
「はあ? おまえ、ちゃんと魔眼使えてんだろうなぁ?」
「使えているし、ほぼ問題もなかった」
「……どういうことだ?」
「さっきの会話中、彼の中に殺意は一度も芽生えなかった」
「……」
「命の危険など無かったってことだな」
「一歩間違えば危なかったんじゃねえのか?」
「その一歩を間違えなかったから、殺意が生まれなかったんだろ」
「ちっ、屁理屈ばかり言いやがって」
「これはただの真実、魔眼で見た真実だ」
「……」
そろそろ頃合いか。
「ふたりとも、それくらいにしておけ」
天幕を出て行くコーキ殿を見送った後。
「いいんですか?」
不満気な表情を隠そうともしないイリアル。
「トゥオヴィ様?」
「……」
いいも悪いもないな。
「ウラハムはどうなんだ? おまえが見抜いた相手だぞ。納得してんのか?」
「……あれはもう仕方ない。イリアルも見ただろ、エリシティア様が命の恩人とまで明記されていた文面をな」
「……」
ウラハムの言う通り。
コーキ殿はエリシティア様が便宜を図るようにと強く求めている人物だ。
そんな彼を疑いがあるというだけで留め置くことなど、私にはできない。
「けどよ、このタイミングで、あの腕利きがトゥレイズに向かってんだぞ。姫様の恩人だろうが、あやしいことに変わりはないぜ」
「あやしいだけじゃ、どうしようもない。おまえも分かってるはずだ」
「……」
頭で分かっていても納得はできない。
イリアルのその気持ちもよく理解できる。
結果を残さねばならぬローンドルヌ河駐留で、我らはまだ何も手にしていないのだから。
ただ、そうは言っても。
「コーキ殿はワディンの者ではない」
我らが重視する獲物は、まずは辺境伯の係累、次にワディン騎士。
「ならば、仮にトゥレイズに入られたとしても、我らにとって大きな失態にはなるまい」
「……」
うん?
イリアルは、失態になると考えているのか?
いや……さすがにないな。
それに、一応。
「コーキ殿には尾行をつけている」
「なるほど、尾行ですか。でしたら、ひとまずは様子見ということで?」
「うむ。とはいえ、尾行が通用する相手なら警戒するほどでもないがな」
「確かに、そうですね」
尾行できるなら好し。
振り切られても、それでも、1人の冒険者に過ぎない。
「いずれにせよ、我らの脅威にはならないだろう」
「そりゃ、そうでしょ。1人でレザンジュ全軍の脅威になるわけありませんよ」
全軍?
当たり前だ。
「で、ウラハムの眼には、どう映った?」
そう。
まずは、そこを詳しく聞かねばならん。
「恐ろしい手練れだな」
「手練れだってのはもう聞いてる。もっと具体的に、どの程度か教えてくれ」
「彼がその気になれば……」
「ああ、本気になればどうなんだ?」
「この天幕にいる全員を瞬殺できる。それくらいだと思えばいい」
何!?
私とイリアルの魔法、ウラハムの魔眼をもってしても瞬殺されると?
そこまでなのか?
「おいおい、ホントかよ?」
「ああ、じっくりと観察したからな。この眼を信じるなら、そういうことになる」
「なら、さっきは危なかったんじゃねえか?」
「一歩間違っていたら、そうかもな」
「……」
にわかには信じがたいが。
魔眼持ちのウラハムが視たのだから、間違いないのだろう。
「おまえ、一言くらい言っとけよ! 無理やり引き留めてたら殺されてたとこだぞ!」
「橋の上ではあまり視えなかったから、前もって伝えるのは無理だ」
「そういうのは、気付いた時点で言えって! トゥオヴィ様まで危険な目に遭わせるつもりか!」
ウラハムが危険だと感じていたなら、伝えていたはず。
言葉にしなかったということは、つまり。
「いや、そこは問題ない」
ということだ。
「はあ? おまえ、ちゃんと魔眼使えてんだろうなぁ?」
「使えているし、ほぼ問題もなかった」
「……どういうことだ?」
「さっきの会話中、彼の中に殺意は一度も芽生えなかった」
「……」
「命の危険など無かったってことだな」
「一歩間違えば危なかったんじゃねえのか?」
「その一歩を間違えなかったから、殺意が生まれなかったんだろ」
「ちっ、屁理屈ばかり言いやがって」
「これはただの真実、魔眼で見た真実だ」
「……」
そろそろ頃合いか。
「ふたりとも、それくらいにしておけ」
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