30年待たされた異世界転移

明之 想

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第7章 南部編

ローンドルヌ河 4

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<トゥオヴィ視点>



 ノジンキト千人長の設けた3日という期限。
 それが切れた翌々日。
 私はまだローンドルヌ河岸に残っている。


「兵数は減ってしまいましたが、気分は楽になりましたね」

「そう、だな」

「あの千人長とトゥオヴィ様じゃあ比べものにもならないからよ。指揮官が変われば兵も変わるってことだわ」

 このふたりも私と共にこの地に残っている。
 彼らだけではない。
 宣言通り引き揚げてしまったノジンキトにローンドルヌ駐留を許された私は、現在400の兵と共にこの河岸に留まっているのだ。

 ノジンキトがどうして許可をくれたのか?
 本当のところは分からない。
 それでも、駐留延長自体は悪いことではないだろう。
 もちろん、今後の結果次第にはなるが……。


「皆、動きが違いますよ」

「……卿らのおかげだな。感謝している」

「感謝なんて、水臭い。我らの仲じゃないですか」

「ふふ、そうだった」

 常に己の意図を酌んでくれる者が近くにいることほど、ありがたいことはない。
 長く私の下に付いてくれている彼らだからこそ、だな。

「部下が元気で動きが良くても、ワディンの残党が姿を現さないようでは少々まずいことになりますけどね」

 その通り。
 今回の駐留では、期待していた成果どころか手掛かりひとつ掴めていない。
 そんな状況でローンドルヌに残った我らは、どうしても成果をあげる必要がある。

「……」

「……」

 軽やかになっていた天幕内の空気が一変。
 肌で感じるほどに重くなってしまう。


 今回のローンドルヌ封鎖作戦。
 私は計画を立案しただけでなく、自ら直接関わっている。
 さらには、こうして居残り指揮まで執る事態になったのだ。
 もはや言い訳のできる段階じゃない。
 負う責任が重くなるのも当然。

 責任か……。

 責めを負うのが私だけならまだいい。
 降格でも減給でも受け入れるだけのこと。
 ただし、それがエリシティア様にまで及ぶとなると……。

 今は遠く離れたキュベリッツの王都キュベルリアに滞在されているエリシティア様。
 王家の後継者問題で、ただでさえ難しい立場にいるエリシティア様なのに。
 私が足を引っ張るなんて、あってはいけないことだ。

 そう、絶対に!

「……」

 今の私がこうしていられるのは、エリシティア様の厚恩あってこそ。
 上級貴族の出身でもない、単なる女性騎士に過ぎなかった私がレザンジュ王軍で確たる地位を手に入れることができたのは、すべてエリシティア様のおかげ。

 当然のことながら私はエリシティア様の派閥に属している。
 そんな私の成功と失敗。
 少なからずエリシティア様に影響を及ぼしてしまうだろう。
 
 ローンドルヌでの結果は決して軽いものではない。
 楽観できるものではないのだ。


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