30年待たされた異世界転移

明之 想

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第7章 南部編

ローンドルヌ河 3

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<トゥオヴィ視点>



 今回のローンドルヌ派兵は、上層部が諸手を挙げて賛成したものではない。
 むしろ、乗り気ではない者がほとんどだった。

 それも当然だろう。
 彼らはワディン伯の係累捕縛を重要視していないのだから。南部を制圧すれば全てが終わる。何の問題もないと考えているのだから。

 その上、南部侵攻をすら喫緊とは考えていない。

「……」

 そんな上層部と作戦本部に、私が何度も上申を繰り返した結果実現したのが今回のローンドルヌ封鎖。

 つまり、この作戦の成否に対し、私は大きな責任を負うことになる。


「ふむ、3日だな」

「……」

「私が割ける時間はそれくらいだ。3日後までに何の進展もなければ引き上げることにする」

「千人長!」

「トゥオヴィ殿、これは上官命令だ」

 千人長の地位にあるノジンキトと軍監の1人である私は、軍部内における身分としてはほぼ対等。
 それでも、今回の任務においては彼の方が上官ということになっている。

「よいかな?」

「……現場の判断で引き上げるのは越権では?」

「ふふ、撤退の判断も任されているのだよ」

 撤退の権限が?
 責任は私にあるのに、権限はノジンキトに?

 ばかな!
 そんな話聞いていない!

「分かったか」

「……はっ」

 これは、まずい。
 何とかしないと……。




********************




 ローンドルヌ河の手前で足止めされること2日。
 相変わらず、レザンジュの兵士たちは河の周辺に駐留したまま。
 状況に大きな変化は見えない。

 このまましばらく様子見を続けるのか、迂回を選択するのか?
 皆が気を揉みながら過ごしている。


「こんな河、泳いじまえば早えんだけどなぁ」

「それは難しいって。ローンドルヌは川幅もあるし流れも速いんだぜ」

「ん? アルは泳ぐ自信ねえのか?」

「あるに決まってんだろ。おれひとりだったら泳いでやるさ。でも、全員が泳げるわけじゃないし、荷物もあるから」

「まあ、そうだな」

「それに、水中には魔物だっているだろ」

「……」

 そんなことは、ヴァーンも分かっているはず。
 が、こうして待機が続くと……。

「で、小舟はどうなんだ? 見つからねえのか?」

「何とか1艘だけ手に入れたらしいけど」

「1つじゃ、厳しいなぁ」

 1艘でも使えるのなら、何度も往復することで全員の渡河も理論的には可能だろう。
 ただ、時間がかかり過ぎる。
 時間がかかると、渡河の途中で王軍に見つかる可能性も魔物に襲われる可能性も高くなる。いや、高くなるどころじゃないな。

 なら、船を見つけるまで待てばいいかというと……。
 ローンドルヌに敷かれた包囲網の影響で、舟艇の入手は今後も難しいはず。

「仕方ねえ。もうしばらくは様子見だな」

「……」

 必然、レザンジュ王軍の撤退を待つという結論になってしまう。

 ただ、そうはいっても、いつまでもここに留まることもできない。
 俺たちが滞在している村は、それほど大きくないんだ。
 そんな村に、いくら商人に扮しているとはいえ冒険者や騎士のような体つきをした者が多数で何日も留まり続けたら……。

 あやしいことこの上ない。
 早晩、レザンジュ側に気付かれることになるだろう。
 やはり、滞在場所を変えるしかない、か。
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