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第7章 南部編
野営 2
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<ディアナ視点>
「ユーフィはどう思う?」
「……何が?」
「あの者のことだ」
「……誰?」
「コーキという冒険者。ユーフィの目にはどう映ってる?」
「……」
ユーフィリアは言葉が少ない。
特に、こういった話題では自ら話すことはほとんどない。
そうはいっても、彼女の表情や仕草を見れば多少は考えていることも分かる。
長年、セレスティーヌ様の護衛騎士を共に務めているのだから。
今のユーフィの表情は……。
そうか。
悪くないと思っているのか。
だったら。
「シア殿やヴァーンから話は聞いているが……あれは?」
「どんな話?」
「テポレン山でセレス様を助けたという話だな」
「ふたりが嘘を吐く理由がない」
分かっている、そんなことは。
けど……。
「だから、信じる」
「……」
「それに、彼は私たちの命の恩人」
「……私も感謝はしているさ。ただ、それとこれとは話が違うだろ」
「同じ。シアもヴァーンもコーキも信用できる」
信用、か……。
「ディアナは彼が嫌い?」
「嫌い、というわけではないが」
好きとか嫌いとかじゃない。
セレス様と距離が近いのが見過ごせないだけ。
一介の冒険者に過ぎない彼が、ワディンの神娘たるセレスティーヌ様に無節操に近づくなんて、そんなこと許せるはずがないのだから。
ただ幸いなことに、今はそんな節も見えない。
ならば、まだ……。
「ディアナ、手が止まってる」
「ん?」
「今は野営の準備中」
「あ、ああ、そうだった」
とりあえず、野営の準備は終えないとな。
「……」
「……」
黙々と作業を進めるユーフィリアの横で、作業を続けていると。
「ああぁぁ!」
悲鳴?
セレス様の悲鳴!?
********************
周りでワディンの騎士たちが野営の準備を進めている中、セレス様と俺だけが休憩をとっている。
セレス様は病み上がりの身体を、俺はエビルズマリスとの戦闘による疲労を考慮され、こうして何もせず休んでいるように言われたからだ。
「……」
「……」
数歩歩けばワディン騎士がいる状況ではあるものの、これこそ絶好の機会。
ということで、幸奈が中に入っているセレス様に話しかけることに。
「少しお時間いただけますか?」
「……はい」
「セレス様に、お聞きしたいのですが」
「何でしょう?」
この対応。
やはり、幸奈は記憶を失ったまま。
俺に気付いていない。
「……」
そうかぁ。
こうして目の前にしても、俺のことが認識できないかぁ。
分かっていたこととはいえ、これは寂しいな。
想像以上に気分が重くなってきたぞ。
が、とりあえず。
「セレス様は、ニホンという言葉に覚えはありませんか?」
「……いえ」
「トウキョウという単語は?」
「……いえ」
覚えていないか。
では、もうひとつ。
「タケシというのは?」
「……ごめんなさい。どれも思い出せません」
そうだよな。
簡単に話が進むわけないよな。
ただ、幸奈の表情には反応が見えなくもない。
だったら、これを続ければ何とかなる可能性も?
「もう少しいいでしょうか?」
「……はい」
「ユキナという言葉はいかがです?」
自分の名前だぞ。
どうだ?
「ユキ……っ!」
どうした?
思い出したのか?
「ユーフィはどう思う?」
「……何が?」
「あの者のことだ」
「……誰?」
「コーキという冒険者。ユーフィの目にはどう映ってる?」
「……」
ユーフィリアは言葉が少ない。
特に、こういった話題では自ら話すことはほとんどない。
そうはいっても、彼女の表情や仕草を見れば多少は考えていることも分かる。
長年、セレスティーヌ様の護衛騎士を共に務めているのだから。
今のユーフィの表情は……。
そうか。
悪くないと思っているのか。
だったら。
「シア殿やヴァーンから話は聞いているが……あれは?」
「どんな話?」
「テポレン山でセレス様を助けたという話だな」
「ふたりが嘘を吐く理由がない」
分かっている、そんなことは。
けど……。
「だから、信じる」
「……」
「それに、彼は私たちの命の恩人」
「……私も感謝はしているさ。ただ、それとこれとは話が違うだろ」
「同じ。シアもヴァーンもコーキも信用できる」
信用、か……。
「ディアナは彼が嫌い?」
「嫌い、というわけではないが」
好きとか嫌いとかじゃない。
セレス様と距離が近いのが見過ごせないだけ。
一介の冒険者に過ぎない彼が、ワディンの神娘たるセレスティーヌ様に無節操に近づくなんて、そんなこと許せるはずがないのだから。
ただ幸いなことに、今はそんな節も見えない。
ならば、まだ……。
「ディアナ、手が止まってる」
「ん?」
「今は野営の準備中」
「あ、ああ、そうだった」
とりあえず、野営の準備は終えないとな。
「……」
「……」
黙々と作業を進めるユーフィリアの横で、作業を続けていると。
「ああぁぁ!」
悲鳴?
セレス様の悲鳴!?
********************
周りでワディンの騎士たちが野営の準備を進めている中、セレス様と俺だけが休憩をとっている。
セレス様は病み上がりの身体を、俺はエビルズマリスとの戦闘による疲労を考慮され、こうして何もせず休んでいるように言われたからだ。
「……」
「……」
数歩歩けばワディン騎士がいる状況ではあるものの、これこそ絶好の機会。
ということで、幸奈が中に入っているセレス様に話しかけることに。
「少しお時間いただけますか?」
「……はい」
「セレス様に、お聞きしたいのですが」
「何でしょう?」
この対応。
やはり、幸奈は記憶を失ったまま。
俺に気付いていない。
「……」
そうかぁ。
こうして目の前にしても、俺のことが認識できないかぁ。
分かっていたこととはいえ、これは寂しいな。
想像以上に気分が重くなってきたぞ。
が、とりあえず。
「セレス様は、ニホンという言葉に覚えはありませんか?」
「……いえ」
「トウキョウという単語は?」
「……いえ」
覚えていないか。
では、もうひとつ。
「タケシというのは?」
「……ごめんなさい。どれも思い出せません」
そうだよな。
簡単に話が進むわけないよな。
ただ、幸奈の表情には反応が見えなくもない。
だったら、これを続ければ何とかなる可能性も?
「もう少しいいでしょうか?」
「……はい」
「ユキナという言葉はいかがです?」
自分の名前だぞ。
どうだ?
「ユキ……っ!」
どうした?
思い出したのか?
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