30年待たされた異世界転移

明之 想

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第7章 南部編

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<ヴァーンベック視点>



 シアは役目を全うした。責任を果たした。
 それは間違いない。

「ヴァーン……」

「ただし、逃げなかったのは良くねえなぁ」

「うん……」

「まっ、セレスさんが留まると言い張ったんなら、仕方ねえか」

「……」

「それとよ、ありがとな」

「えっ?」

 おまえの気持ち、嬉しかったぜ。

「ヴァーン、何が?」

「……何でもねえよ」

「何でもって、そんな、何なの?」

「まあ、いいじゃねえか」

「……」

「っと、そんなことよりだ。ちっと行ってくるわ」

「行く?」

「ちょっと、コーキの様子を見にな」

「……」

「心配は要らねえぜ」

「危ないわ!」

「問題ねえって。あの怪物の気配を感じたら引き返すつもりだからよ」

 気配を感じ取れればな。

「止めても行くの?」

「……ああ」

「……」

「コーキを見捨てることなんて、できねえだろ」

 あいつには二度も命を救ってもらったんだぞ。
 それなのに、昨日の俺は……。

 今からじゃあ、遅いかもしれねえ。
 けど、それでも。

「わたしも行くわ」

「駄目だ」

「嫌よ。コーキ先生はわたしにとっても恩人なのよ。それに……あなたをひとりで……」

「……」

「もう、あんな心配したくないから」

「シア、おまえの気持ちはよく分かるし、ありがてえ」

 ほんと、俺にはもったいないくらいだよ。

「だったら、ヴァーン」

「シアは、セレスさんの傍にいるべきだ」

「……」

「数刻も離れちゃいけねえ」

「今、そんなこと言うなんて」

 ずるいよな。
 分かってる。
 それでも、ここは俺に任せてくれねえか。

「必ず無事に戻るから。なっ、シア」

「約束?」

「ああ、約束だ。コーキを連れて戻ってくるぜ」

「……あなたの今の心は1つ、2つ?」

「1つと言いたいところだが、それじゃあ嘘になっちまう」

「2つなのね」

「そうだな。ただし、シアを思う心が圧勝してるぜ」

「ほんと?」

「間違いねえな」

「……分かった。でも、圧勝はしなくていいから」

    シアらしい笑顔とはにかむ仕草。

「嬉しいけど……」

    これだから、まいっちまう。

「それで、わたしたちはどうすればいいの?」

「ん、ああ、皆が起きたら伝えてもらえるか?」

「出掛けたことを?」

「それと、もうひとつ。5刻、いや5刻半までここで待っていてほしい。で、その時間になっても俺が戻らねえようなら先に行ってくれ、と」

「ヴァーン!」

「だから、心配要らねえって。万が一の話だからよ」

「……」

「じゃあ、行ってくるぜ!」





「いねえ……か」

 急いで駆けつけた昨日の惨状の現場。
 そこには、生あるものなど何も存在していなかった。

 それどころか、あたりは惨たらしい亡骸ばかり。
 蹂躙された痕跡しか残っていない。

 気分がわりいな。
 こんな場所、さっさと立ち去りてえぜ。

 けどよ……。

 コーキは、どこに行っちまったんだ?
 気配のひとつも感じねえって、何だそれ?

「……」

 ついさっき。
 この現場に着く直前になっても、戦闘の気配は感じなかった。
 コーキも剣姫も、あの怪物の気配も感知できなかった。

 だから、分かっちゃいたが。

 コーキ?
 どこにいる?
    何してる?

 コーキを探すにしても、こっちは手掛かりなんてねえんだ。
 ここに来りゃあ、糸口が見つかると思ってたのに……。

 欠片ひとつ。
 気配も何も。

    見当たらねえ。感じやしねえ。
 この状態で、どうすれば?

「……」

 まさか、気配を消してる?
 その可能性もあるのか?

 あの怪物が俺たちの前に姿を現した時。
 気配を感じることなんて、まったくできなかった。
 あいつは気配を消せる竜の怪物。

 コーキも剣姫も同じことができるはず。
 なら……。

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