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第7章 南部編

四半刻 1

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<剣姫イリサヴィア視点>



 オルドウの冒険者アリマ。

 キュベリッツの広場で出会い、冒険者ギルドでその戦いぶりを目にしたあの日。
 あの時点で、ひとかどの人物だとは思っていたが。
 まさか、ここまでとは……。

 剣、魔法、魔力の運用、対応力、適応力。
 全てが一流のそれ。
 駆け出しの冒険者だなんて、あり得ないことだ。 
 その上、腕利きにありがちな傲慢さも見えない。

 一流の冒険者で人柄も悪くない、か。

「……」

 彼がいなかったら、私はどうなっていた?
 怪物の創り出した異界にひとりで?
 極限の地であいつを倒し、脱出を?

 ……考えられないな。

 私ひとりでは、敵を倒すどころではなかったはず。
 その前にきっと……。

 ……。

 ……。


 依存。

 いや、違うか。
 とはいえ、依存に近い感情ではある。
 そんな感情を私が抱くとは……。
 
 信じがたいし。
 信じたくもない。

 が、感情は嘘をつかない。
 嘘をつく頭とは異なり、心は嘘をつけない。

 だから。

「認めるしか……」


 冒険者としての私はいつの頃からか、剣姫と恐れられ。
 避けられることも少なくなかった。
 ひとりで戦ってばかりだった。

 その私が、公爵令嬢ではない冒険者の私が。
 心を許している。
 オズ以外に?

 こんなこと、子供時代以来だろう。
 魔球合戦のコーキ以来か。

「……」

 コーキとアリマ。
 どこか似た雰囲気がある。

 もちろん、コーキについての記憶は子供時代のもの。
 曖昧なものだ。
 それでも、不思議とそう感じてしまう。

 だが、ふたりが別人であることに疑う余地はない。
 髪色が違う、名前が違う。
 魔力量も魔法の力量も違う。
 違い過ぎるのだから。

 私のように宝具で姿を変え、コーキという名を持ち、魔法も急成長を遂げた。
 そんな可能性も皆無とは言い切れないが……。

 アリマは貴族ではないという。
 貴族でないなら、家名は持っていない。
 コーキという名を持っているわけがない。
 宝具を所持することも叶わぬだろう。

 つまり、ふたりは別人だ。

 別人。
 それでいい。

 今の私は彼をひとりの冒険者アリマとして信頼しているのだから。


 そんなことを考えながら、次の戦いに備えること半刻。

「今日こそ、あいつを倒す日です」

「うむ。決着をつけるか」

 見慣れた光景が目の前に。
 空間が歪み始めている。

 決戦の時だ!





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